STEREO CLUB TOKYO

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⑥憂いの宮殿

 ポツダムには、18世紀半ばに作られた豪奢な宮殿がある。時のプロイセン王、フリードリヒ2世の命により建造された、サンスーシー宮殿である。「憂いのない宮殿」という意味であるという。壁面が薄い黄色で塗られ、オーストリアのシェーンブルン宮殿を思わせる。あちこちに飾られた彫像が見事である。
 不思議なのは、見事な石造りの彫像が、黒くすすけている。元の石は白いのに。後から塗ったのでもあるまいに。訝しがっていると、酸性雨の影響で黒く変色してしまったのだという。修復するのに多大な手間と費用がかかるそうで、遅遅として進まないとも聞く。なんとも残念な話である。酸の雨。何とかならないものか。
 さて、サンスーシー宮殿は小高い丘の上にあり、斜面を利用した庭園が広がっている。宮殿の内部は見学できないが、迷路のような庭園を散策した。あちこちに生垣で囲まれた通路があり、複雑に交差する通路には訪れる者を楽しませる工夫がある。交差する場所には噴水があったり、曲がり角には彫像が置かれたりしている。
 天気が良かったら、もっと美しかったろう。午後になっても天候は回復せず、雨が降ったり止んだり。こんな状況で撮った写真というのは、どうにも冴えないものになりがちだ。被写体のコントラストが下がり、色温度が上がる。この状況を利用した撮り方というのもあるのだろうが、立体写真はごまかしが効かない。
 天気を憂いでもしょうがない。雨の日だからこそ、見つかるものがあるかも。そう考え直したとき、足元に何かいる。カタツムリ達だ。殻の色が固体によって、黄色、オレンジ、赤と、一匹ごとに違う。まるでおとぎ絵本のよう。雨に濡れ、殻の光沢が美しい。・・・マクロのステレオカメラは持ってきていなかったねぇ。・・・憂いがもう一つ加わった。(つづく)

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投稿者 J_Sekiguchi : 2012年08月30日 10:00

⑤湖のさかな

 さて、ドイツに来てからというもの、ずうっと天気が思わしくない上に、いろいろと戦史に関わる見学を続けてきたのでちょっと疲れ気味。命の重さを考えるというのはとても大切なことであるが、気力もけっこう要る。
 ポツダム周辺はたくさんの湖が広がり、豊かな自然に囲まれた美しい場所がたくさんある。貴族の別荘などが数多く建てられたという。そんな場所の、山小屋風のレストランで昼食をとる。
 レストランはログハウス風の建物で、たくさんの花で飾られている。一歩中に入ると、このあたりの動物だろう。剥製があちこちに飾られている。この辺りは猟場としても使われてきたのだろう。
 剥製を眺めながら肉料理を食べるというのも乙である、という向きもあろうが、僕はやっぱりダメである。レストランの目の前には湖と深い森が広がっている。湖があるなら魚料理があるだろう、ということで、メニューを凝視。
 はて、湖の魚といえば何だろう。日本ならうなぎの蒲焼などありそうなものだが、海外でうなぎ料理は旨くなさそう。という先入観が働く。うなぎ以外・・・と探しながらも、無性に蒲焼が食べたくなってくる。我慢、我慢。
 魚料理の欄にコッドフィッシュの何とかという文字があり、うなぎではないことを確認して注文する。コッドって何だっけ?たしか、タラの仲間・・・。ここで海の魚を食すというのは果たして・・・。微かな不安がよぎる。
 しばらくして、不安は杞憂に終わった。注文の品は当たりであった。ドイツビールに良く合う上品なお味。追加のビールをもう一杯。昼間からビールを飲むと怒られそうであるが、この国では飲むのが当たり前だという。万歳。
 しかし相変わらず天気が冴えないのだが。雨粒が静かな湖面に作る、まあるい波紋を眺めてのんびり。これもよし。(つづく)

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投稿者 J_Sekiguchi : 2012年08月23日 10:00

④戦史探訪

 ベルリン市はブランデンブルグ州に囲われている。だが、ブランデンブルグ州を構成する市の一つがベルリン市なのではない。州の真ん中に、全く行政の異なるベルリン市がぽかりと位置しているのだ。地図で見るとなんとも奇妙だ。
 ブランデンブルグ州の州都はポツダム。この名を歴史の教科書で見た覚えのある人も多いだろう。第二次大戦の末期、終戦のあり方を米英ソ連で会談した場所である。では、引き続き戦史をたずねてみよう。
 ポツダム会談が開かれたのは、郊外にあるツェツィーリエンホーフ宮殿。今は内部を見学することができる。20世紀初頭にドイツ帝国の皇太子のために建てられた。その古びた建物は、宮殿というよりは瀟洒な邸宅という感じ。
 今でも庭木は丁寧に手入をされ、花壇には花があふれ、古い波打つガラスが張られた建物の窓辺には蔦が生い茂る。湖畔の緑に囲まれた大きな別荘。その中で世の中を大きく変える会談が為された。
 それは1945年の夏のこと。ツェツィーリエンホーフ宮殿の一角に、大きな円卓をしつらえた部屋がある。天井は高く、細かく仕切られたガラス窓から柔らかな光が差し込んでいる。ここに米英ソ連の首脳陣が集い、ナチス・ドイツ降伏後の終戦処理と、我が国への終戦について話し合いがされ、ポツダム宣言が発せられた。
 その後、終戦に向けた混乱と、さらに大きな犠牲が生じた。そして、長く続いた世界大戦が終結に至る。
 宮殿の中にはいくつもの部屋があり、書物や資料で埋め尽くされた書棚が林立する。その書物の中には、日本に関するものも見ることができる。この場所で大きな苦悩と決裂、そして決断が繰り返された。その時の重い空気が各部屋の隅に、今も残っている。いつまでも、そう、いつまでも。人間とは何と罪深き生き物であろうか。(つづく)

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投稿者 J_Sekiguchi : 2012年08月16日 10:00

③残酷なる壁、その跡

 もう20年も前に無くなってしまったから、今となっては昔話なのかもしれない。東西ドイツに分断していた時代、大国間の冷戦を象徴する存在。ベルリンの壁である。東側から西側への、市民流出を防ぐために作られた恐ろしい壁。
 1961年に建築され、1990年の東西ドイツ統一まで西ベルリンを包囲していた。壁が壊されてから20年も経つとその当時の面影はもうない、と街の人々は言う。東西は融合し、新しい一つの都市になっている。
 壁が建っていた場所には、それを記す記録として地面にライン状のプレートが埋め込まれている。新しい道がこのラインを跨ぐように通っている。新しい風景が、ずっと前からそうであったかのように、当たり前のようにここにある。
 全長150kmを超えて建設されたベルリンの壁も、今では歴史の証人として一部が残されているだけになった。その場所を訪れると朽ちた壁がある。市民の手で壊されたコンクリートの壁は、内部の鉄筋があらわになっている。
 この場所の近くに、かつてチェックポイント・チャーリーと呼ばれた西側の検問所があり、今では観光地になっている。露天の物売りが、東側の古い銀貨とか、怪しげなミリタリー・グッズを並べている。全く平和な風景だ。
 またしばらく歩くと、18世紀末に造られたブランデンブルグ門につながる広場に出た。この日は休日で、何かの記念日だったのだろう。あちこちに兵士に扮装した人々が集っている。お祭りのような雰囲気。これも平和な風景だ。
 カメラを向けると、みんな並んで笑顔一杯で撮ってくれと言う。ではと、一枚撮り、礼を言いつつ目の前の小箱に小銭を入れた。もう少し見て回ろうと思っていたのだが。低く立ち込めた雲から、とうとう雨が降りだした。雨粒はたちまち大きくなってゆく。こうなると観光どころではない。リアリストを懐に入れて雨宿りだ。(つづく)

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投稿者 J_Sekiguchi : 2012年08月09日 10:00

②平和のためのモニュメント

 ベルリン中央駅の西、かつての西ベルリンの商業中心地に行く。ここで、朽ち果てたような大きな建物がまず目に入る。カイザー・ヴィルムヘルム教会である。他国の教会で見た美しい尖塔はなく、瓦礫のごとく崩れた姿で建っている。
 この教会は19世紀に建造され、その当時は美しい姿であったが、かのベルリン大空襲の際に無残にも破壊されたのだ。現在、修復は崩壊が進まない程度に留めているという。戦争の悲惨さを後世に伝えるための記念碑だ。
 教会前の大通りに面して、家電量販店やら、ショッピングモールなどで賑わっている。だが、その雰囲気は日本の各都市とはずいぶんと趣が違うようにも感じる。若者達が集ってはいるが、派手さというものはあまりない。
 大通りの真ん中に広い歩道があり、小さな公園のようである。この通りを散歩しながら、いくつかのモニュメントを見て回る。来た道を振り返ると、先のカイザー・ヴィルムヘルム教会が遠くに見える。
 あいにく、ドイツに着いてからずっと天気が良くない。今にも降りだしそうな天気だ。いい写真が撮れるかどうかに運があるとすれば、それはまず天気であろう。晴れか曇りかで全く雰囲気が変わってしまう。
 もちろん、天気が良ければいい写真になるというわけではない。でも、天気が悪いと撮影気分が盛り上がらない。光の状態がどうこうというより先に、自分の気持が作画に大きく影響すると思う。
 だからといって、天気が変わるまで待つ時間の余裕が無い。余裕があれば、いい雰囲気の雲が流れてくるまで待ってみるとか、日差しの当たり具合がいい具合になるまで待つとかするのだが。
 大戦の面影があちこちに残る街。それを撮るには、愁いのある空のほうが合っているのかもしれない。(つづく)

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投稿者 J_Sekiguchi : 2012年08月02日 10:00