STEREO CLUB TOKYO

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ベラスコープf40のひみつ

 ヨーロピアンフォーマットのフランス製カメラ。アメリカではブッシュ社が販売代理店をしたので、アメリカ由来のものにはブッシュ社の刻印がある。レンズは水中カメラで有名なカリプソと同じ、ソン・ベルチオ製だ。このレンズはボケの感じがとてもやわらかく、しっとりとした感じに写る。これを買うときに「フランス映画のようなきれいな写り方をしますよ」と言われたが、フランス映画を知らないくせにその時はなんだか納得した気分になっていたのがお恥ずかしい。撮影してからこんな感じか、と思った次第。
 後期型にはレンズコーティングが施してあるものの、逆光には極めて弱い。レンズ本体の弱さに加え、筐体の暗箱としての設計に問題がある。裏蓋を開けるとフィルムフレームの内側に傾斜した面がある。この面でレンズからの像が乱反射し、フィルムにフレアの形で現れてしまうことが調査の結果判明した。これは昔のフィルム感度がどうこうというレベルではなく、こんなところで乱反射が起きること自体が問題だ。どういう設計しとるんじゃ、ゴルァ!というレベル。高価なカメラであるだけにショックは大きい。これを解消するには傾斜面へのつや消し黒塗装をやり直す程度ではダメだった。植毛紙を貼り付けるという手術がいる。しかし植毛紙にはある程度の厚さがあり毛先が立っているので、画像の四辺が毛羽立ったような輪郭になってしまう。なるべく毛足の短い植毛紙を使ったり、毛先を焼いて丸めるなどの工夫も必要だった。手間をかけてやっとレンズ本来の描写を楽しむことができる、ちょっとしたトンデモカメラだ。
 光学機器としての設計はともかく、メカとしての作り込みは重厚で、モノラル撮影切り替え、ガバナー音のないスローシャッター、凝った作りのファインダーなど、他にはない魅力がある。さすがはカメラ発祥の国らしい作り込みだ。でも、そこまで凝った作り込みをするなら暗箱としての性能は最低限確保して欲しかった。これって基本だよな。

F40.JPG
               これは既に植毛紙で改善した状態 ▲

投稿者 sekiguchi : 2008年03月29日 23:43

デルタステレオのひみつ

 非常にシンプルな構造のカメラである。ファインダーのアイピース部分が裏蓋のロックをするノブを兼用している。まず最初に、やってはいけないことを教えよう。アイピースのレンズが汚れているからといって、綿棒でレンズを拭いてはいけないよ。なんと、レンズが奥に押し出されてカメラ内部に落ちてしまうことがある。こうなったら分解しなければならないが、特殊工具がなければ分解することができない。だから、ブロアーでそっとホコリを掃う程度にしておいた方がいい。えっ!?そんなのアリ?と思われるかもしれないが、実際にあった事実だ。
 裏蓋を開けるとパーフォレーションに勘合する櫛歯が見える。フィルムを巻き上げると、フィルムに引かれてこの櫛歯が右方向に動く。この動作でシャッターチャージをするという変わったセルフコッキング機構になっている。シャッターボタンを押すとシャッターが作動し、更に押し込むと櫛歯が奥に引っ込んでスプリングの力で左端に戻る動作をする。こんな動きをするカメラ、見たことがない。フィルムを巻き戻すときはシャッターボタンを押し込んで、櫛歯を奥に引っ込めてフィルムがフリ-になった状態でノブを回す。巻き戻す間はシャッターボタンを押しつづけ、櫛歯を引っ込めておく。
 レンズは50mmで、この時代のステレオカメラとしては珍しい焦点距離である。と思ったらコーティングなしの単玉メニスカスだ。およそ2~3mにフォーカスが固定されている。描写は「ふわっと」というか「ぽわん」というか。使い方次第では面白いカメラであるが、機能・性能を大幅に削除した廉価版である。マーケット価格も比較的安価ではあるが、価格を根拠にエントリーモデルとして購入すると撮影してガッカリという事態になりかねない。単玉レンズならではの特徴的な写り方をする、ということを理解した上で、このカメラならではの味わいを楽しみたいものである。

デルタ.JPG
       キャップは自作した ▲

投稿者 sekiguchi : 2008年03月22日 11:31

キンダーステレオのひみつ

 このカメラはリアリストと同じデザイナーによる設計と聞く。確かにファインダーが下部にあり、おでこホールディングになっている。このファインダーが距離計連動で、二重像合致式になっている。この他にも、巻き戻しがクランク式になっていたり、セルフコッキングになっていたりとなかなか先進的なメカニズムを採用している。レンズはシュタインハイル社製の35mm/f3.5がついているけど、おそらくトリプレットだろう。
 このカメラは中古マーケットでもそれほど見かけない。希少なのかと思ったら、マーケットでの価格もそれほど高くはない。運良く安価で入手する機会があったけど、シャッターが不良だった。仕方なく分解して観察してみると製造コストをかなり下げた設計思想であることがわかる。作動不良の原因はガバナーの固着だった。ガバナーと言ってもあまり精度のよくない部品で組まれており、シャッターも2枚の穴明きスチールプレートを重ねて摺動させる方式のため、安定して作動させることが難しい。調整を重ねても安定しないのはシャッターのスチールプレートの間に汚れがあるためなのはわかっていた。でも、プレートを取り外すにはレンズを分解しなければならない。シャッターが絞りを兼用しているため、組みレンズの中間にプレートがあるのだ。残念な事にレンズ鏡筒は分解が難しい構造になっている。ムリに分解しようとするとレンズを傷める危険がある。
 結局、重分解を行っても、もともとの構造が精度の出にくいものだから、と調整を諦めてしまった。シャッターの修理を行おうとするとレンズの分解まで手をつけねばならない。そのためかマーケットでも完全に動作する機体は少なく、レンズのきれいなものも少ない。非常にメンテナンスのしにくい機種である。もしかしたら、斬新なデザインにしたものの販売戦略的に製造コストを下げるため、メンテナンス性を犠牲にしたのだろうか。良いデザインだけにとても残念。

キンダー.JPG

投稿者 sekiguchi : 2008年03月15日 13:22

ベルプラスカのひみつ

 旧東ドイツ製で、ツアイス・テッサーレンズがついたヨーロピアンフォーマット・カメラ。ツアイスレンズがついているということで人気がある。リアリストf2.8とよく似た描写なんだけど、ほんの少しだけやわらかい表現をするような気もする。
 さて、せっかくのツアイスだけど残念なのはボディへのレンズ取り付けが悪く、性能を発揮できていない場合がある。僕のがそうだった。左右のレンズでピントが違うのだ。ステレオ視したのでは見逃しやすいが、片方ずつをルーペでチェックすると片方の像がぼんやりしていて愕然とした。リアリストはフィルムレールの位置を調整してこのような不具合を直すことができるけど、ベルプラスカには調整するところがない。思い切って分解してみると、筐体とレンズボードをつなぐネジのところに薄いワッシャーが入っていた。なんだろ?と思って取り出すと、薄い紙片で作ったワッシャーを重ねている。どうやら、これで位置調整をしているらしい。それにしてもこのワッシャーの作り方がお粗末で、オリジナルとは考えにくい。もしかしたら、ドイツのおっちゃんが自家修理でこっそりやったものかも。だって紙だもんなぁ。
 とにかく、調整するにはここしかないので僕も紙でワッシャーを作ることにした。柔らかい紙では不安があるので、トレーシングペーパーのような硬くて薄い紙を使ってみた。シャッターをバルブで開放し、三脚に乗せ、フィルム面にすりガラスを置いて像を観察しながらワッシャー枚数で調整する。ワッシャーを重ねたり、抜いたり。こんな方法で製造時も調整していたのかと思うと「それはないだろう」という気がする。それでもなんとかこの方法で調整を完了することができた。このカメラは目測式だが、僕は目測が嫌いだからシューに単体距離計を乗せている。調整のついでに距離リングの位置も調整し、マッチングを図った。近距離での撮影もバッチリ隅々まで焦点が合う。苦労したよ。

ベルプラスカ.JPG

投稿者 sekiguchi : 2008年03月08日 10:10

FED・BOYのひみつ?

 ステレオリアリストのひみつを探ってきたけど、他のステレオカメラもいくつか紹介しておこう。これはFEDステレオと同じ系列のウクライナ製カメラ。ヨーロピアンでオートマチック撮影という他にはない機能を持っている。
 フィルム感度を合わせ、右レンズの脇にあるレバーをAにセットすれば、露出を自動コントロールしてくれる。被写体が暗すぎる場合はシャッターロックする安全機構もある。レバーを絞り値にセットすると、シャッターが1/60に固定される。マニュアル撮影というよりはフラッシュ撮影のためだ。
 レンズはインダスタール38mmf2.8で、なかなかよく写る。ただ、僕のはレンズの取り付けが悪いのか、片画面で隅の方にちょっとしたピンぼけが目立つことがある。ステレオ視の時にピンぼけは目立たなくなるから、この辺は許してやろう。
 この国のカメラはユニークだ。でも、故障も起きやすい。あるとき、修理依頼で業者に電話をすると「あ~。ロシアですか。ロシアには手を出すなって親方にきつく言われてるんですよ」と丁重に断られた。正確にはウクライナはロシアではないのですがね。それはともかく、我が国のカメラとは部品精度の基準が異なり、分解すると元通り組めなくなるらしい。このカメラは巻き上げ機構にトラブルが多く、ひどい場合はフィルムが切れる。思い切って自分で分解してみてびっくり。2枚のギアを重ねて勘合している部分の加工が悪く、部品が滑っていた。部品の手直しは簡単だったが、組立にはやっぱり苦労した。
 露出制御は針式のメーターが内部にあり、針をシャッター機構が挟み、その位置で絞りの開口を決めるというメカトロニクス(笑)な制御がされている。驚くことにこの電子回路にはスイッチが無い。電池を入れておくだけで常に電流が流れているという常時戦闘態勢モードの設計になっている(笑)。使わないときは面倒でも電池を抜いておこう。

FED_BOY.JPG

投稿者 sekiguchi : 2008年03月01日 01:08