STEREO CLUB TOKYO

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波の音

 サントリーニ島をレンタカーで巡る。三日月形をした島の内側は湖のように穏やかだが、外側は波が荒い。瀬戸内海と日本海ぐらいの違いと言えば分かりやすいだろうか。島の南東の砂浜が広がるところにはビーチパラソルが並び、小さなレストランや土産物屋が並んでいる。潮風と波の音が心地いい。ビーチのはずれにある駐車場にレンタカーを止め、散策をした。
 ビーチの端のほうに切り立った崖が見え、この崖の壁面に洞窟のようなものが見える。その形から、人の手で作ったものであることがわかる。山の上にあった遺跡と同じ人達の手によるものだろうか。
 小さなレストランの入り口に老婦人がニコニコしながら立っている。洞窟についてカタコトの英語で聞いてみると、やはり遺跡であるという。どうやらこのレストランのオーナー婦人のようだ。もしかしたらこのご婦人、遺跡を作った人々の末裔だろうか。
 せっかくなので、ここで昼食を頂くことにした。ビーチの近くでオープンテラスになっている席があり、魚料理を注文する。オリーブオイルをたっぷりかけてグリルされた大きな魚が運ばれてきた。老婦人が何か話しかけてきたのだが、英語の辞書しかもっていなかったので、残念ながらわからない。嫁サンと首をかしげながら、たぶん「いい男だね」と言ってくれているに違いない、などと勝手に解釈していたのだが。。。後で調べたら「どうぞ召し上がれ」ということだった(笑)
 この魚料理、旨かった。波の音を聞きながら、のんびり昼食を取る。そんな日が一年のうちに何回かあったほうが、人間にとって良いことなんだと思う。もっとのんびりしたかったのだが、老婦人に別れを告げる。
 帰り際に一緒に写真を撮って欲しいと頼むと、ニコニコしながら僕たちを両脇に抱きかかえてくれた。おふくろさん。そんな感じの人だった。もしも前世があるなら、僕らは大昔、みんなであの山の上の街に住んでいたのかもしれない。(つづく)

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投稿者 J_Sekiguchi : 2011年06月30日 10:00

香る風

 エーゲ海に浮かぶたくさんの島々。この中にアトランティス伝説の起源ではないかといわれている島がサントリーニ島だ。三日月型の島と、火山の噴火口を持つ小さな島から成る独特の形は、素人目にも過去に大きな海底火山の噴火と隆起、沈降があったことが想像できる。実際、この島では古代の遺跡が今も発掘されており、火山活動が人々の生活に大きな影響を及ぼし、また大量の火山灰がその生活の痕跡を埋め尽くしてしまった歴史があることを物語っている。
 今は観光地として賑わい、美しい街並みは心和ませる。内湾は波も穏やかで、切り立った海岸沿いの丘には白とブルーで彩られた家々が並ぶ。島の外周にはビーチとレストランがあり、夏のバカンス時には世界中から観光客が集う。
 一方、島の中央から南は小高い山になっており、今は住む人もいないが、大昔に都市があったことを示す遺跡が残っている。曲がりくねった見晴らしの良い道を車で上ると、古代の遺跡が広がる場所に出る。石造りの住居跡や、階段、石畳、柱を立てていたと思われる窪みなどが無造作に残っている。一体、どのような生活がここで為されていたのだろうか。
 ここは島でも一番高い場所にあるため、島全体を見渡せる。にぎやかな街並みが小さく見える。日差しと風が強い。その風に乗って、独特のスパイスのような香りが漂っている。初めて出会う香りのはずなのに、どこか懐かしい。辺りを調べると、ここに点在する植物から香っているのであった。おそらく、失われた都市でもこの香りが漂っていたのであろう。
 なんという植物か街の人に聞けばわかるだろうと、一輪だけ折って山を降りた。だが、だれもその名を知る人はいなかった。帰国してから「カレープランツ」と呼ばれていることが分かったが、あの香りはカレーの匂いとは程遠い。遺跡の中で風の中に身を置いていると、古代の人々の賑やかな営みが聞こえてくる、そんな気がする香りなのだ。(つづく)

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▲ヨーロピアン改造リアリストで撮影
 手前にあるのが香る野花

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年06月23日 10:00

夕日の街

 サントリーニ島を観光するにはレンタカーが便利だろう。そう思って借りたのだが、ここの道路は日本とは通行区分が逆なのだ。日本では車は左側通行。ギリシャでは右側通行。おまけに、借りた車は左ハンドル。これには参った。
 日本での右ハンドル運転の感覚をリセットし、いつもとは全て逆なのだと意識しても、どうせうまくはいかないだろう。乗る前から思っていたが、ほんとうに途方にくれた。まっすぐ走る分にはいい。だが、右でも左でも、どっちかに曲がるととたんに分からなくなる。前の車についていけばいいのだが、前に車がいないとなると困った事になる。
 手のひらにびっしょり汗をかいて、緊張しながらハンドルを握るなんて、ここ何年も経験したことがない。対向車のクラクションで緊張がもう一ランク上がる。追い討ちで大型車とのすれ違い。助手席の妻殿が話しかけてくるが、聞いている余裕なんてナイ。死ぬかと思ったヨ。何の話だったか改めて聞いてみると、たわいのない話。怖くないらしい。
 それはともかく、ようやく右側通行に慣れてきたかなぁという頃、太陽は西の空低くに輝いている。島の北端の町、イアは、世界で一番夕日がきれいだという。すっかり若葉マークがえりの僕には、少々遠距離だが行ってみることにした。
 到着すると、たくさんの人達が岬のほうに集まっている。夕日は大きく減光し、赤く輝く円盤のように見える。だんだんと水平線に飲み込まれるように沈んでゆく。円盤が上下につぶされたように歪みながら、しずかに水平線と一つになろうとしている。とても美しい光景だった。ただ日が沈んでゆく、毎日繰り返される光景のはずなのに。
 さて、宿まで来た道を戻らねばならない。日が暮れ、恐怖の右側通行&夜間運転だが、ここにとどまるわけにはいかない・・・あれ?いつの間にか、ハンドルさばきが苦ではなくなってきた。これなら明日はどこへでも行けそうだ。(つづく)

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投稿者 J_Sekiguchi : 2011年06月16日 10:00

アテネにて

 アテネの市街は、静かで落ち着いた雰囲気がある。東京のビル街や、繁華街のようなあわただしい気配がない。石畳の小道を行くと、土産物屋やカフェが軒をつらねる。土産物屋にちょっと入ってみる。ここは、銀細工のアクセサリーを売っている店のようだ。様々な銀細工が並べられている。こういうのを眺めて回るのは楽しいものである。
 細工物のデザインの中で、渦巻き模様を連ねたものが多いことに気がついた。一見すると中華皿の縁に描かれている渦巻きに似ている。中国文化の影響があるのだろうか。店の人に聞くのだが、どうにも言葉がうまく伝わらない。どうやら、古代ギリシャ神殿の柱の装飾に見られる渦巻き模様、これを象っているということらしい。後で調べると、中国で使われている渦巻き模様よりギリシャのものの方が古く、中国の方が影響を受けた可能性もあるらしい。
 店の雰囲気が良かったので長居をしてしまった。渦巻き模様の神秘さに惹かれ、いくつか細工物を購入した。銀は黒くなりやすく、鈍い光を放っている。店の人がちょっと待っているように告げて店の外に出て行く。すぐに戻ってきたが、銀を磨いてきたようだ。彼の手にあるものは、銀特有のやわらかい輝きを放っていた。
 彼に礼を言って、幸せな気分で店を出る。さて、路地を行くと、どのカフェやレストランも外にテーブルを並べている。ちょっと一休み。街並みを眺めながらゆっくりとした時間を過ごす。本当に、時間がゆっくりと流れているんではないかと思える。こういうゆっくりとした時間の中で使うカメラはスローな方がいい。リアリストはスローなカメラだ。
 いつも思うのだが、ヨーロッパの古い街並みで使うカメラは、リアリストのような‘50年代のカメラが似合う。過去と現在が溶け込んだような雰囲気だから、この年代のデザインが合うのだろうか。さて、明日はサントリーニ島に渡ろう。(つづく)

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投稿者 J_Sekiguchi : 2011年06月09日 10:00

パルテノン神殿

 もうだいぶ前のことになる。夫婦でギリシャ旅行に行った。一週間の旅程で首都アテネとエーゲ海に浮かぶ島、サントリーニ島を訪れた。その時の様子を何回かにわたってご紹介しよう。
 日本からアムステルダム経由でアテネに行く。アムステルダムでの乗り継ぎ待ち時間が長く、かなりクタクタになってアテネのホテルに到着した。案内された部屋のテラスからアテネの街並みが見渡せた。街並みの奥、遠くの丘にパルテノン神殿が見える。夕刻を迎えて神殿の上に満月が昇ってきている。疲れが癒される思いだ。
 翌朝、パルテノン神殿に向かう。日本から西欧へは、行きの時差というのはそれほどきつくはない。朝食をゆっくりとり、タクシーで丘のふもとまで行く。丘を登ってゆく途中でも、あちこちで修復作業の大規模な工事をしている。その工事現場の中を縫うようにして、小高い丘の頂上に出る。すると、開けた視界に巨大な神殿が姿を現す。
 パルテノン神殿は、古代ギリシャの時代に建てられた壮大な神殿である。残念なことに、オスマン帝国の支配下にあった15世紀に弾薬庫として使われ、ここにベネチア軍の砲撃を受けたために破壊されてしまった。今、これを修復する工事のため、あちこちに工事用の足場が組まれている。修復途中でもその姿は圧倒的な迫力で迫ってくる。
 重機もない時代にこれだけの建造物を建てたということに、人類英知の底深さを感じる。ただ心配なのは、工事現場といいながらも、近くに寄って見学することができる。いきなりグラッと崩れてくることは?
 そんな素人の心配はさておき、この丘からはアテネの町全体を見渡すことができる。古い街並みがどこまでも続いている。異国の地にやってきたんだなぁと、心底感じる一瞬である。さて、丘を降りて街を散策しよう。(つづく)

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投稿者 J_Sekiguchi : 2011年06月02日 10:00