STEREO CLUB TOKYO

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②教会

 スウェーデンに限らず、欧州の街中には、立派な教会があちこちにある。たくさんありすぎてか、旅行ガイドブックにもろくに紹介されていなかったりする。たとえば、ストックホルム中央駅の正面から大きな塔が見えるクララ教会。地図に載っているが、特段の紹介はない。凝った飾りの付いた美しい尖塔は、駅前のシンボル的な存在でもあるはずなのに。
 近くに行くと、敷地を囲う柵に設けられた扉は閉ざされ、カギがかかっている。一般の見学はできないのかと訝しがったが、よく見れば公開の時刻が表示されている。朝早く来すぎたので入れない、ただそれだけのことだった。
 崇める宗教が違うという理由で、入門を拒まれるのではないかという心配は杞憂である。誰でも、訪れる者は受け入れてくれる。ただし、神聖な場所であるゆえ、謹んで、不敬のないようにしなければならない。
 さて、スウェーデンは立憲君主制であり、王国である。中央駅から散策しながら、徒歩で行ける距離に王宮がある。小高い岡の上にあり、すぐ隣に大聖堂が建っている。大聖堂の大きな塔は、クララ教会と同様に、遠くからも良く目立つ。
 昼頃に大聖堂を訪れると、中では聖歌隊の合唱が始まっていた。ろうそくの灯火とステンドグラスで照らされた室内に、美しい歌声がこだまする。この時間にめぐり合った幸運に感謝しつつ、この感動を忘れないようにとシャッターを切る。
 どの教会もそうだが、内部は音が反響する構造になっている。広い空間の中に、パイプオルガンとドーム型の天井、柱には聖者の像が並ぶ。教会をテーマにした、立体写真の写真集を作りたくなるような世界が広がっている。
 ただし撮影には、かなり厳しい環境にある。明るくないので、かなりの低速シャッターにしなければならない。だからといって三脚を立てることもできない。己の精神力でブレないよう、聖なる力を借りてシャッターボタンを押す。(つづく)

ストックホルム中央駅.jpg
▲朝のストックホルム中央駅
クララ.jpg
▲クララ教会
聖歌.jpg
▲王宮の大聖堂

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年07月28日 10:00

①スウェーデン

 フィルムカメラを使う者なら、誰でも一度は憧れたことがあるハッセルブラッド。かつて、アポロに載って月面の鮮明な映像を地球に持ち帰ったのはハッセルブラッドだった。では、この素晴らしいカメラを生み出した国はどこかと問われ、即答できる人は少ないのではないだろうか。ノーベル賞で知られるアルフレッド・ノーベルの故郷、スウェーデンである。
 スウェーデンは、かつて中立主義を取りながら、兵器産業を維持してきた歴史がある。それらを含めて工業国としての技術力はかなり高い。アポロに載せるカメラを作ることができたのも、この国の工業技術が支えていたのだ。
 6月のある日、この国の首都、ストックホルムを訪れた。この時期の北欧は夜が短い。21時ぐらいはまだ空も明るく、23時頃になってようやく暗くなってくるというところ。しかし、到着したときには街中が闇に包まれていた。
 旅の疲れもあって、ぐっすり寝たつもりだったが、時差のせいで早く目が覚めてしまう。ホテルの外に出てみると、古風な、荘厳な建物が、通りの向かいから語りかけてくるようだ。旧中央郵便局だという。こんな建物があちこちにある。
 朝の4時ということもあり、通りには人影も少ない。太陽がまだ低い位置にあるため、ちょっと肌寒い。街の雰囲気は良いものの、通りにゴミがこれでもかというぐらい散乱しているのには閉口した。これでは撮影どころではない。
 やれやれ、早起きは三文の得とは、たいした得でもないという意味か、などと思いつつホテルに引き上げる。ちょっと早めの朝食をとり、ゆっくりとコーヒーを飲んでから再び通りに出てみると、雰囲気が一変していた。
 たくさんあったゴミどもは、清掃車が一掃し、通りは仕事に向かう人々であふれている。今日の一日が始まるという感じ。あわててカメラを取りに部屋に戻り、この風景を撮影した。では、スウェーデンの旅、お付き合いいただこう。(つづく)

ストックホルム朝.jpg
▲早朝の街は人影も少なく、タクシーだけが通る
旧郵便局.jpg
▲旧郵便局の玄関

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年07月21日 10:00

火口の島

 三日月形をした島の真ん中に、誰も住んでいない小島がある。この島が大昔、海に浮かぶ火山だった名残だ。海に沈下した山の、火口の部分が小島になっている。サントリーニ島には遊覧船があって、この火口の島に渡ることができる。
 船に乗り、内海を巡る。火山活動は完全に休止しているわけではなく、一部には温泉が涌いているという。そのスポットに船が到着すると、皆、海に飛び込んでゆく。日本の温泉のような雰囲気ではなく、海の一部が温かくなっているというわけ。カナヅチの僕は温泉に浸かるのは遠慮しておいた。とても船から飛び降りる勇気はない。
 内海は穏やかで、波も少ない。ふと船の縁から海底を覗き見ると、どこまでも透明で美しい。火山島の荒々しさとは対照的な美しさが海の中にある。誰かがビスケットを投げ入れると、小魚たちがいっせいに群れてついばむ。
 船は温泉客を収容し、火口に続く入り江に到着した。ここから歩いて火口を見るのだ。本島の美しい街並みとはかけ離れ、荒々しさだけが広がっている。足元は黒い岩ばかり。溶岩が固まったものだ。中には溶岩の流れた模様がくっきりと刻まれた大岩もある。歩きづらい、道なき道の山登り。さすがに体力が尽きてきた。
 火口まで行くことは断念し、ちょっと一休み。先に行った人達が戻ってくるあいだ、辺りを眺めると溶岩の岩ばかりの土地にも植物が根付いている。遺跡のある山で見た、香りの強い草花が群生している。風で種が運ばれるのだろうか。荒れ果てた土地にも、こうして生命が根付こうとしているのだ。命というのはなんと逞しいことか。
 火口まで行った人達が船に帰ってきた。皆満足げな表情だ。大きな黒い岩を土産に持ってきた人もいる。船は火口の島に別れを告げ、内海を廻ってもとの港に帰ってきた。さて、今日でこの地ともお別れだ。また会いましょう。
(ギリシャの旅・おわり)

サントリーニ6.jpg

火口.jpg

次週より、別の異国の地をご案内いたします。お楽しみに。

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年07月14日 10:00

火山のビーチ

 美しい海岸、というイメージで誰もが想像するのが白い砂浜。南国の海岸に広がる真っ白な砂浜というのは、サンゴが波で砕かれた砂。サンゴ由来ではない白い砂浜は、石英の砂のことが多く、ルーペで見れば透明な粒が見える。ちなみに、踏みつけると音がする鳴き砂は、石英の砂が擦れあって音が出る。音の出る鳴き砂の浜は、不純物の泥などがないためとても綺麗だ。だが、これらサンゴや、石英の粒というのは、火山性の土地にはまず見当たらない。
 さて、サントリーニ島にもビーチがある。島の内側の海は湖のように波が穏やかだが、火山の外輪山が沈下してできているため断崖絶壁ばかり。島の外側の海は波が荒い時もあるが、いくつものビーチが点在している。その中に、普通のビーチとは全く趣の異なる、しかし美しいビーチが島の南端にあるという。レンタカーでフィラの街から30分ぐらいだろうか。だいぶ右側通行、左ハンドルの運転に慣れ、景色を見る余裕も出てきたので、レッドビーチと呼ばれるそこへ行ってみた。
 向かうビーチは、車を止めて徒歩で丘を登り、海に向かって降りるという道を辿る。丘の上に立って驚いた。海の対岸が切り立った崖になっていて、真っ赤な岩肌が一面に広がっている。対峙するかのように、海はどこまでも碧い。細長いビーチにはたくさんのパラソルが並び、とても美しい光景だった。
 ビーチに降りるまで、いくつかの岩を乗り越え、急な斜面に気をつける。波打ち際に降りると、赤黒い小石が敷き詰められている。手に取ると、たくさんの穴があいていて軽い。火山の礫が堆積してできたのだろう。
 パラソルを借り、しばらく日光浴をする。海に入ると、真夏だというのに結構冷たい。透明度が高い海に浸かりながら、迫り来る真っ赤な壁を臨む。こんな海岸が世の中にあるとは。自然が作り出した奇跡の海岸である。(つづく)

Rビーチ.jpg

サントリーニ1.jpg

▲赤い砂浜が広がる (ヨーロピアン改造リアリストで撮影)

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年07月07日 10:00