STEREO CLUB TOKYO

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南国の香り

 カメラには革が張ってあるのが当たり前と思っていた。黒くて、でこぼこした、硬い革だ。カメラを掴む指が滑らないように、こんなに深く皺のよった革を使っているんだろう。でも、これって何の革なんだろう。子供の頃からの疑問だった。
 はじめは正体不明の何かの動物の革と思い、次には牛革を型押ししてでこぼこにしたんだろうと思った。でも、実際には違っていた。それはほんの少し軟らかいプラスチックのような、ゴムを硬くしたような樹脂のシートだった。双眼鏡にも同じようなシートが使われている。面積が広いためか、双眼鏡からはこの樹脂独特のにおいがする。これはなんだろう。
 石油から合成されたプラスチックの一種だと思っていたら、グッタペルカと呼ばれる天然由来の樹脂だということを知った。熱帯の植物から樹液を採って作った、天然ゴムのようなものらしい。だからこんなにおいがしたのか。
 では、リアリストはどうかというと、グッタペルカではなく山羊の本皮をなめしたものが使われている。滑り止めという点ではグッタペルカに一歩譲るとしても、質感はなかなかいいんじゃないかと思っている。だが、オークションで手に入れたものだと、ひどく痛んだものもたまにある。僕は外観が痛んでいるカメラでも、できるだけオリジナルのままで使いたいと思っているのだが、どうにも張り替えなければ使用に耐えないような可哀想なものもまれにある。
 新しい革を張るというのも修復の一つの方法で、その方法については前に紹介したことがある。でも、本革は結構高価であるし、滑り止めのシボの深さの、ちょうどいいものがなかなかない。そんな中、ビジネス用のA5サイズの手帳に使われているビニールカバーが、グッタペルカのような質感でシボの感じもいいことに気がついた。使い古した手帳からカバーを外し、カメラに張るのもいいかもしれない。いまのところ張替え予定のカメラがないが、古い手帳をストックしておこう。

グッタペルカ.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年03月31日 10:00

ボディの隙間

 リアリストにはレンズバージョンの違いとか、いくつかの種類があるのだけど、主要な部品は全く同じだ。筐体の本体、レンズボードとトップカバー、どれもアルミダイキャストで作られているが、作られた年代によらずほとんど同じ形の金型で作り続けられたと思われる。もちろん、金型というのは使っているうちにくたびれてきて、新たに作り直さなければならないのだけど、あまり大きな変更はしないで同じものを作り続けてきた。そんなふうに思えるのだ。
 たとえば、巻き戻しのノブ。初期型は巻き上げノブと同じ大きさで、操作性はお世辞にも良いとは言いがたい。指が痛くなっちゃうのだが、これが後期型になるとずいぶんと大きなノブに変っている。大きすぎて、トップカバーに重なるので、干渉しないようにトップカバーを円弧状にへこませている。金型のデザインを変えたのかと思ったら、機械加工でカバー本体を削っている。金型を修正するより、鋳込んだ後で部品を削った方が安くできると判断したのだろう。
 それにしても、巻き上げノブを引き上げると判るのだけど、削られたトップカバーから内部に通じる窓ができてしまっている。中の機械がちょっとだけ見えちゃっている。砂とか埃がここから入ってしまうと・・・こまるよなぁ。この他にもノブには、巻き上げ側も少し大きくしたり、回す方向を刻印していたりと、細かな違いがいくつかあるようだ。
 僕はリアリストに関しては“後期型よりも前期型”の方が完結した形になっているんじゃないかと思っている。後からデザインを変えながら、モノづくりにはあまり手を加えていないということが後期型にいくつか見られるからだ。おそらく途中で経営陣の交替があったりとかで、モノづくりの考え方かがどこかで変ってしまったんだろうと想像している。それでも根本の作りを変えずに、長期に渡って生産された。これは、基本性能を崩さないという点で幸運だったといえよう。

ダイアル1.jpgダイアル2.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年03月24日 10:00

マウント作業の前に

 ステレオカメラで撮影したフィルムは、現像のときに必ず「長巻で」と伝えるようにしよう。普通のライカ判とはコマ送りが異なるから、間違ったところで切断されると困るからだ。とはいえ、ヘンなところで切られることはまず無い。うっかりそのまま現像に出しても「コマの間がわからないから長いままで返却します」ということで長巻になって帰ってくる。
 長巻は、文字通り1本のフィルムを切らずにロール状に巻いたもの。現像所によって、薄い紙を間に挟んで巻いた場合と、長いビニールチューブに入れて巻く場合の二通りある。どちらもその状態のままでコマ毎にカットすると、カールが強すぎてうまくマウントできない。平らに戻してやらなければならない。一番簡単なのは、一方の端を洗濯ばさみで挟んで吊るし、一番下に適当なおもりを付けておけばいい。あるいは、戻ってきた状態と逆向きに巻いておいてもカールが取れる。ただし、うっかり忘れて放っておくと逆向きのカールが付いてしまうので注意。
 どちらの方法でもある程度のカールは取れるが、なかなか平らにならない。適当な長さにカットして、フィルムシートホルダーに入れて数日置いておけば平らになる。平らになったフィルムをはさみで一コマ毎にカットし、マウントすればいいのだが、たくさんあると面倒なのだ。慣れてくれば楽しい作業だが、すぐに見たいときもある。マウント作業をやらなくてすむ方法が無いのだろうか。
 リアリストでもヨーロピアンの場合でも、コマを切り分けた後は画面をひっくり返さなければならない。だからロールのままでビュアーにセットしたら逆ステレオ、つまりは凹凸が逆になる。何かの仕組みで左右を入れ替えなければならない。・・・ロール専用のビュアーを自作するのは難しそうだ。

フィルムロール.jpg Newビュアー.JPG
こんなビュアーがあればいいのだけど、この方式では逆ステレオになってしまう  ▲

投稿者 sekiguchi : 2011年03月19日 00:10

初期のリアリスト

 リアリストのバージョン紹介として、以前にParagon銘のF3.5レンズがあることを紹介した。僕が持っている機体は製造番号からごく初期のものであることがわかったのだが、実際に使ってみるとこれがあまりよくない。ポジフィルムで撮影し、マウントにセットしてビュアーで覗くと、画面の一部がちらついて見えるのだ。
 マウントのやり方がまずかったんだろう。マウントをばらして再度慎重に作業をした。ウインドウの下の縁を基準にして、左右のコマの上下位置を慎重に合わせる。もちろん、ステレオウインドウが崩れないよう、左右の位置も適切にする。だが、ウインドウの上側で画像がちらつく。上の縁を基準にしてセットしなおすと、今度は画面の下側がちらつく。
 マウント台紙を疑ってみたが、問題がない。もしやと思い、左右のポジフィルムを重ねてみたら、左右で画像の大きさがわずかに違う。ということは、左右のレンズの焦点距離が違うということではないか。これでは手の施しようがない。
 カメラレンズには焦点距離が何ミリか刻印してある。工場では、この焦点距離にピッタリ、小数点以下の誤差もなく作っている、というわけではない。工業製品というのは誤差が出る。たくさん作らねばならないから、決められた工程で加工をする。最後の確認で検査をして、加工誤差がある程度の幅に入っていれば合格とする。一眼レフの交換レンズなどは最終組立工程で、後玉とフランジ面の距離をスペーサーで微調整している。レンズ一本ごとに個性があるというわけだ。
 これがステレオになると重要な問題になる。左右で焦点距離が大きく異なると、像の大きさに違いが出て今回のような問題が出るというわけだ。レンズ一本ごとに焦点距離を調べ、相性のイイヤツ同士を組み合わさなければならない。おそらく、初期のリアリストは組み合わせの良くないレンズペアが出荷されてしまったんだろう。僕の持っているのはその一台だ。

初期のリアリスト.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年03月10日 10:00 | コメント (2)

巻上げが重いナ

 リアリストを使った人なら、誰もが感じるのが「フィルム巻上げのノブが重い」であろう。重症の機体になると、ノブのギザギザが指に食い込んで痛い。なんでギザギザになっているんだ!と憤慨するほど重いことがある。これでは撮影する気力も失われるというものである。快適に操作ができないカメラでよい写真が撮れるはずがない。
 そんなわけで、以前にメンテナンス方法を紹介した。分解して古い油と汚れを取り除き、注油することで巻上げが驚くほど軽くなるのだが、僕が持っている機体の中で特に軽いものがある。フィルムが入っていないんじゃないかと思われるような軽さで、スイスイノブが回るのだ。フィルムの終わりの端まで、ストレスフリーで巻き上げることができる。
 何でこんなに軽いのか、よく考えてみた。普通、メンテナンスをしても多くの場合はフィルムの終わりのほうでだんだんと巻上げが重くなる。たぶん、巻き上げスプールとフィルムが完全に平行じゃないためだろう。特に巻き上げの軽い一台は、たまたまスプールの位置がベストな状態なんだろう。さて、巻き上げ機構を分解してみよう。
 スプールは中空になっていて、組立のときに巻き上げ軸が差し込まれるのだが、スプールが軸に対して斜めに固定されると巻上げが重くなるのだろう。スプールの下側に軸をガイドする穴がない。これがわずかに平行にならない原因だ。
 改良案がある。ポリプロピレンの下敷きのような、加工のしやすいプラスチックのシートを用意する。これでドーナツ状の円盤を作り、スプールの下側にセットする。ドーナツの穴は巻き上げ軸の径に合わせておくというもの。これならスプールは平行になって、巻上げが軽くなるはずである。同心円になるように注意深く加工しなければならない。
 この改良案、まだ試してはいないが、きっと良い結果が得られることだろう。結果は・・・そのうち報告しよう。
巻き上げ.jpgスプール改良.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年03月03日 10:00