STEREO CLUB TOKYO

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減圧禁止

 日本というのは、とにかく湿度が高い。そう感じるのは夏の欧州から帰ってきたときだ。あちらの国では、少々暑いと感じる日でもスーツの上着を着たままでいられる。だが、日本で同じことをやったら死んでしまう。日本の夏にビジネススーツの上着というのは、完全にミスマッチである。湿度が高いと体感温度まで上がる。
 そう文句を言いながらも、夏場の公式の場では長袖のウールを我慢して着る。湿度の高さを実感する。こういう高温多湿の環境にある我が国は、レンズにカビが生えやすいに違いない。
 そう思っていたら、日本よりずっと湿度が低いであろう米国のヒトからカメラを購入したときのこと。その人はたくさんのカメラコレクションをしていて、地下室の倉庫に置いているのだという。だが、地下室は環境が良くない。カビが生えまくって困っている、というメールが届いた。米国でもカビは王道楽土を建国しているのだ。
 レンズのカビと湿度がどの程度関与しているかは疑問であるが、湿度を一定にする保管庫というのがある(まるで高級葉巻のような扱いだな)。そういうのが一つあるといいのかな、なんてカタログをめくったことがある。
 その中に、庫内を減圧するというものがあった。そのときはすごいものがあるなぁ、ぐらいの気持ちで受け止めたのだが、後でよく考えるとまずいのではないか。潤滑油を使って組んだ機械を保管するには不適切では?
 浸透性の良くない液体を隙間に充填する方法に、この減圧を使うやり方があるのだ。むやみに使うと、潤滑油が浸透して欲しくない部位にまで浸入してしまう。僕はそう危惧している。もしも、フォーカスダイヤルの潤滑油が絞り羽にまで回り込んだりしたら。老婆心に過ぎるというのならばいいのだが。

減圧含浸.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2012年03月29日 11:12

K2をもらって来た男

 僕の手元に、旭光学のK2がある。結構気に入っている一台だ。システムカメラではないけど、がっしりとした安心感がある。持ってみると大きさと重さから、昔のカメラだよなぁという感じが伝わってくる。オモシロイ。
 このカメラも中古品である。どこのどなたが使っていらっしゃったのか。でもまあ、大切にされていたのだろう。ケースに入れたまンま、醗酵が進んでいた。レンズもボディもカビだらけだったのだ。酸っぱくなったキムチのレベルを超え、梅雨時の放置食パンのような姿であった。これはすでに腐敗だろう。
 そんな境遇のコイツはなじみのカメラ屋からタダでもらって来たもの。別に買い物をするわけでもなく、店の前を通った際に挨拶をすると、まあ寄っていきなさいという。長話になるのも嫌だなあ、と思いきや、タダでカメラを持って行けと。ストロボも付いているよ、というのだ。そんなうまい話があるものか、と思えばこの始末。
 なんでも、下取りで引き取ったが、ここまで汚いと扱いようがないというのである。捨てちゃおうとしていたら、たまたま僕が通りかかったというわけ。この店の売り上げに全く貢献していないので遠慮していたが、そう言わずにどうぞ、どうぞ、ということでもらった。そのお店もだいぶ前になくなってしまって寂しい限りであるが・・・。
 そんな哀愁漂う一台なのだが、カビが蔓延しているだけで本体は健全そうであった。そこで、以前紹介したカビ取りの秘技を使い、レンズもミラーも復活した。モルトプレーンも取り換え、使える一台になった。
 これにペンタックスのステレオアダプターを取り付けて撮影をしている。専用のビュアーがないので稼働率がとても低いのだが。因みに、いっしょにもらったストロボは、自作マクロステレオカメラに最適の仕様だった。

ペンタックスK2.jpg
カビの王道楽土は壊滅し、美しいsmcコーティングの輝きがよみがえったのであった。めでたし。

投稿者 J_Sekiguchi : 2012年03月22日 10:00

ウインドウINウインドウ

 立体写真で面白いのは、遠景と近景を組み合わせて臨場感が出せるところだ。意図的にこれらを組み合わせると、普通の写真にはない効果が出る。立体視して、距離感が具体的に感じられたとき、これが驚きに変わる。
 そんな被写体として使えるのが、窓から見た風景。室内から窓の外を眺めた様子が、立体写真だと臨場感として、その場にいる空気感のようなものが切り取れる。ビュアーで見たときのオモシロさはなかなかのものだ。
 たいていの場合、窓の外のほうが明るくて、窓枠のほうが極端に暗い。どちらも適正露出にすることは、特殊な処理でもしない限り無理。だが、立体写真というのは、シャドーが黒くつぶれていても、僅かに諧調が残っていれば認識が可能だ。闇の中の僅かな濃淡がその中の造形を伝えてくれる。
 そういう効果があるので、僕は明確にしたい主題のほうに露出をあわせ、その他のほうは出来成りで撮る。窓の外の風景を明確にしたいなら、窓の外に合わせて早いシャッターを切り、窓枠はアンダーにする。
 ただし、どういった場合でもどちらにもフォーカスが合うよう、絞りは絞り気味にしている。
 いつもヨーロッパの国々の窓には趣があるように感じている。凝った窓枠であったり、しゃれた飾りがあったり。使われているガラスも、古風なものであったりする。古い建物を見るときなど、窓の造りに注視してしまうこともしばしば。
 ストックホルムのホテルに泊まったときのこと。廊下の突き当たりに、ストックホルム中央駅を望む窓があった。俯瞰で歴史を感じる駅の様子を眺めることができる。この窓に飾りが置いてある。ならばと、ちょっと引いたアングルで、この様子を撮る。ステレオウインドウの中に、もう一つのウインドウが収まった。

窓1.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2012年03月15日 10:00

⑩フランス土産あれこれ

 明日の帰国を目前にして、今日は土産物でも買いにパリの繁華街に出てみよう。そう思ってシャンゼリゼ大通りを歩く。土産にはパリでしか買えないようなものがいい。だからといって観光土産屋に行っても、あるのは冴えないものばかり。
 気分を変えて裏通りに出る。小さな通りに、決して華やかではないが小奇麗な陶器屋を見つけた。ウインドウにはハンガリーの銘窯、ヘレンドの作が並んでいる。ここならたしかな品物がありそうだ。そう踏んで中に入る。
 出迎えてくれた女主人は、見慣れぬ東洋人を冷かしと思ったのだろう。だが、ヘレンドのいい作品があるね、と言うと嬉しそうに応えてくれた。フランスの窯のものはあるかな?と尋ねると、Gien窯のきれいな絵皿を出してくれた。
 絵皿を一抱えほど買い、これで土産を配る先に不自由しなくて済む。そう安心して、最後に凱旋門を見に行く。すると、凱旋門の真下で何か作業をしている。ロープをたらして、何かを吊るそうとしている場面に出くわした。 作業を最後まで見ていると、なんと吊るしたのは大きなフランス国旗だった。戦勝記念日を目前にしたものだった。
 はためく国旗を前にして、忙しくも長く感じたパリ滞在もそろそろ終わりを迎えたことを実感する。離れるとなると寂しいものだ。今夜は仕事で集まった皆と共に、日本食の料理屋で宴会を開く予定なのである。いよいよお別れだ。
 さて、宴が終わった頃。近くの教会のコンサートを思い出す。間に合うだろうか。仲間を引き連れて訪れたとき、教会の扉は硬く閉ざされていた。がっかりしていると、不意に内側から扉が開く。ちょうど、コンサートが終わったところだった。
 来客者の感動に溢れたざわめきの中を進むと、ご婦人が今日の楽曲を録音したCDを売っていた。日本から来たことを伝え、1枚購入する。お互いに笑顔が溢れる。帰国して写真を眺めながら聴くのが楽しみだ。(フランスの旅・おわり)

パリ・花屋.jpg

凱旋門・旗.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2012年03月08日 10:00

⑨神聖なる音色

 ヨーロッパの都市に行くと、どこでも教会を訪れるのが常になってしまった。信者ではない僕が、何故教会に行くのか?そう問われると困るのだが。写真を撮ることは別として、そこに行くことで何か日常では得られない落ち着きを得ることができる、理由としてはこんなところだろうか。実際、何をするわけでもなく、ボンヤリしているだけで落ち着く。
 そんなわけでパリの宿泊場所の近くを散歩していると、教会を見つけたので中に入ってみる。外からは一見して教会とはわからないような建物なのだが、扉を開けると高いドーム型の天井が大きく広がり、宗教画が見下ろしている。
 この教会は建物の入り口に掲げられた文字から、セント・フェルディナンド教会というのがわかる。たしか宿泊しているホテルに面した小さな通りも同じ名前だった。通りの名前に使われるぐらいだから、古くからの教会なのだろう。
 さて、中に入ると誰もいない。午前中の早い時刻だったせいだろうか。窓から日差しが差し込み、やや明るい感じのする空間は、静かで、今まで訪れた教会よりも落ち着くような気がする。端の方の椅子に座り、のんびりとする。
 すると、突然パイプオルガンが美しい曲を奏でだした。その音色は天井のドームに反響し、周囲を重厚な雰囲気で包んでいる。どうやらパイプオルガンの調整をしているらしい。驚きつつも、その音色をしばらくの間楽しんだ。
 ふと気付くと、僕のほうに歩いてくる人影がある。祭壇に一礼をしながら礼拝堂の奥から来られたのは、この教会のシスターであった。僕に何かのパンフレットを差し出し、ここでコンサートを開くので来てはどうかと言われている。
 申し出に驚きながらも、僕は明日、日本への帰路につくのだ。だが、コンサートは今晩だという。何と嬉しいことか。でも、今晩は別の用事がある。それでも、用が済んでからも間に合うだろうか・・・。シスターに礼を重ねた。(つづく)

フェルナンド通り.jpg
▲狭い通りなのにぎっしり。縦列駐車がうまいねぇ、フランス人は。

聖フェルナンド.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2012年03月01日 10:00