STEREO CLUB TOKYO

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モノクロの風景

 秋になるとあちこちの神社でお祭りが開かれる。豊作を神に感謝して冬を乗り切る、という昔からの風習に由来してるんだろうね。それはともかく、お祭りは楽しい。境内に屋台が並び、ぶら下がった白熱電球が灯ると雰囲気が盛り上がる。子供にとってこんなに楽しい時間はない。金魚すくいに射的、綿あめが並ぶ。ソースの焦げる香ばしい香りも。
 こういった風景は昭和の時代からあるのだけど、最近はその頃の雰囲気に戻ってきた感じがする。この風景をモノクロで撮ろう。ステレオリアリストにフォマパンを詰めて、思いのままに撮る。自家現像するのでカラーよりもお金がかからない。いつもより気楽にシャッターを押した。セピア反転で現像し、ポジスライドをステレオマウントに仕上げる。
 ビュアーを覗くと、子供のころに見たあの懐かしい風景が目の前に広がるように思えてくる。記憶からあの頃の色彩が遠のいた分、モノクロの画面は想像力を掻き立てる。どこからか、あの祭りの喧騒が聞こえてくる気がする。
 さて、子供のころの記憶といえば、白黒テレビで特撮番組を食い入るように見ていた頃を思い出す。色のない画面なのに、テレビに対峙している間は無色であることを全く意識していなかった。不思議な思い出。そんな昔の記憶を呼び覚ますかのように特撮博物館が開催された。ステレオリアリストにイルフォードFP4を詰めて出掛けたのだった。
 博物館の出品物は撮影禁止なのだが、ミニチュアセットの一角だけは撮影OKなのだ。何と粋な計らいだろう。解説によると遠景位置、近景位置でミニチュアの縮尺率を変えている。画面の中で自然な遠近感を得る工夫だ。
 ステレオカメラを持参したのは正解であった。セピア反転したポジスライドをビュアーにセットすると、リアルな町並みが静止画で感じられる。そしてその風景は、白黒テレビで見た懐かしい夢の世界と同じだった。

フォマパン100をセピア反転したものは自然なコントラストが出ています。
白熱電球の部分は露光が飽和していますが、違和感がありません。他のフィルムだと、こういった部分にフィルムベースの色が強く出て不自然になることがあります。
FP4は軟調ですが、露出オーバー気味でもあります。現像条件も合わせて工夫すればコントラストが上がるでしょう。このフィルムでも露光が飽和しているところはベースの色が若干出ていました。このあたりも今後、工夫を重ねてゆきます。
(左右で若干の色調や濃度が違うのはスキャナーの調整不足によるものです)

投稿者 J_Sekiguchi : 2012年10月25日 10:00

イエロージャック式モノクロ反転現像処方

 フィルム衰退の危機感から、ステレオカメラを長く楽しむための選択肢拡大というわけでモノクロフィルムのポジ現像実験を進めてきました。ポジ化の手法はいろいろありますが、比較的やりやすい手法としてセピア調色剤を使うものが昔から知られています。しかし、具体的処方は公開されておらず、やってみたけどうまくいかないというのが前回のレポートです。あれから試行錯誤を繰り返し、実用に供する処方を発見しましたので謹んで報告いたします。
 処方の詳細は末尾に記しますが、今回の報告は詳細の条件出しが済んでいないところでまとめていますので、試される方はこれを念頭に実施ください。また、前回のレポートで銀画像(ネガ像)が硫化される可能性を記しておりますが、これは誤りであったことが今回の実験で判明しております。最適条件であればセピア化したポジ像が得られます。
※※注意点を記します※※
今回、ISO100クラスの各銘柄フィルムで実験しています。撮影の時にはいずれも感度設定を1段下げています。
1)最も良好な結果となったのはフォマパン100。チェコのフォマ・ボヘミア社の製品。量販店で入手が可能です。
2)イルフォードFP4、ケントメア100もポジ像が得られます。フォマパンよりやわらかい描写が得られます。
3)ネオパンSSもポジ化しますが、ハイライト部分にフィルムベースの青色が強く出て不自然になります。
4)コダックTMax100、ネオパンアクロス、イルフォードデルタ100はいずれもうまくいきません。これらは乳剤に特別な工夫がされているらしく、今回の処方では漂白が進行しません。ゆえに画面が真っ黒になります。
今後も実験を重ねます。新たな発見を目指して楽しんでまいりましょう。

 
作例は上からフォマパン100、イルフォードFP4、ネオパンSS
FP4はブルーがかって見えますが、これはスキャナーの調整不足によるものです。
FP4はもう少し現像時間を短縮したほうがいいかもしれません。

【イエロージャック式反転現像処方】
<現像> 現像液 YJD-11
 温水500ml、メトール0.5g、無水亜硫酸ソーダ38g、アスコルビン酸ナトリウム(ビタミンC)5g、
 炭酸ナトリウム(一水塩)15g、ブロムカリ2g、ロダンソーダ2g
(ロダンカリと記述したのはロダンソーダの間違いでした。訂正いたします。)
この処方はコダック硬調現像液D-11を参考にした、独自の配合としています。
フォマパン100(撮影時ISO50)の場合、24℃9分15秒、のち流水で停止。 
温度・時間条件は検証中です。(以下工程も同様)
<硫化>NNCセピア調色剤の調色液(硫化ナトリウム溶液)を使用。適宜撹拌し6分間。のち、流水で洗浄。
 ※硫化液は劣化しやすく、劣化した液を使用すると反転しません。使用前に未現像フィルム片を明光下で
   投入し、すみやかに黒化することを確認して使用してください。
<漂白>NCCセピア調色剤の漂白液に赤血塩を2g追加。適宜撹拌し8分間。のち、流水で洗浄。
<定着>スーパーフジフィックスを使用。適宜撹拌し5分間。以降、通常の現像処理と同様に水洗。

(追記)
フォマパン100を使い、撮影感度をISO100に設定しても良い結果が得られます。
ISO100で撮影し、現像液温度が20℃のときは11分あたりが良いようです。
硫化、漂白は5分程度でも充分処理されるようです。

投稿者 J_Sekiguchi : 2012年10月18日 10:00 | コメント (4)

EMDEマウント

 紙製ヒートシールマウントの供給が途絶えて久しい。海外の通販サイトをよく見ても、新しいマウントの供給に関する情報は入ってこない。ebeyを検索しても、紙製マウントが出品されることは珍しく、比較的高めの落札になりやすい。
 そのebeyをパトロールしていると、ガラスマウントである“EMDE”マウントを時折見かけることがある。これは過去に作られたストックが放出されているのであって、今でも作られているものではない。僕はこのマウントをいくつか所有しており、気に入ったカットが撮れた時など、特別な場合に使っている。いいものだからちょっと紹介しよう。
 構成は、2枚の板ガラスとこれに挟まれるフィルム枠、全体をシールするアルミ製の外枠から成る。外周はリアリストマウントのサイズと同じ。少し厚くて重いけど、どのようなビュアーでも使うことができる。
 マウントの手順は、まずフィルム枠にカットしたコマをセットすることから始める。普通のマウントと同じように、ステレオウインドウが正しくなるように位置を合わせる。僕はコマを固定する方法として、市販の粘着テープを使っている。小さく切ったものをコマの四隅に貼るのだが、これをしないと後でずれたときに困るのできっちりやるべし。枠は薄いアルミ板でできていて、遮光性は抜群に良いし、窓枠のエッジもきっちりしている。何より仕上がりがきれい。
 ガラス板はあらかじめきれいに磨いておき、ブロワーで埃を落としてからフィルム枠をサンドイッチする。この状態で外枠に入れ、枠の挿入口を折り返して閉じれば完成だ。ラベルなどをいっしょに封緘することもできる。
 何枚もあると重くて扱いにくいが、フィルムへの傷つきを気にしないで気楽に取り扱えるのがいい。こういった方法を応用し、ポリカーボネートの板を使って自作したらどうだろう。軽くてカッコいい自作マウントが作れそうなんだけど。

投稿者 J_Sekiguchi : 2012年10月11日 10:00

カメラの箱詰

 生まれてこの方、大小取り混ぜて9回の引越をしてきた。その経験もあって、荷物を段ボール箱に梱包するのは結構得意な方だ。箱の中の空間に、無駄な空間ができないように荷物を詰める。パズルのような感覚で楽しみながらやることにしているのだが、数が多いとさすがに疲れる。その引越も、とうとう10回目を迎えることになった時の話。
 ステレオカメラのコレクションをしているわけではないのに、引越のたび、カメラを詰めた箱が増えている。一つずつ丁寧に梱包しながら、コイツはもうちょっと使ってあげればよかった、などと感慨に耽るのでつい手が止まってしまう。
 カメラというのは道具だから、飾っておいても意味がない。そんな風に僕は思っているので、長く使わないカメラがあるとかわいそうに思ってしまう。棚の後ろのほうに置いて忘れかけていた奴が「ここにいましたよ」と出てくる。どれも個性のある奴等。要らない奴なんて一つも無い。引越を機会に処分をするなんてかわいそうなことはできない。
 手塚治虫先生の漫画「どろろ」に、土中に埋められた小判が妖怪の姿になって現れる、というくだりがある。醜く恐ろしい、金小僧という姿になって現れるというもの。掘り出してまた、世の中で使って欲しいということで現れるのだ。
 カメラを棚の奥のほうにしまい忘れたことに気がついたとき、僕は決まってこの金小僧のくだりを思い出す。きっと、コイツだって使って欲しいと思っているに違いないのだ。忘れていてごめんね、と心の中でつぶやく。同時に、恐ろしい妖怪の姿で現れなくて良かったと思う。もし妖怪の姿になったら、カメラ小僧と呼ばれるのだろうか。ん?
 さて、引越と同時に日常の風景が変る。新しい風景から、新しい被写体が生まれる。しまい忘れていたカメラを整備して、新しい風景を撮ろう。11回目の引越まで、果たしてどんな作品ができあがるだろう。

投稿者 J_Sekiguchi : 2012年10月04日 10:00