STEREO CLUB TOKYO

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食えぬキノコ

 キノコというのは本当に不思議なヤツだ。雨上がりの地面に突然現れる。で、しばらくするとどんどん形を変えて崩れ去り、跡形もなくなってしまう。だが、キノコは子実体と呼ばれる胞子をばら撒く器官である。本体である菌糸はまだ、その周囲に広く繁殖している。目に見えないがあちこちに存在しているらしい。そんなありふれた存在でありながら、キノコがいつ、どこに発生するかは予測ができない。いつも同じところに現れるやつもいれば、何でこんなところにという場合も。そんなキノコというのは実に神秘的で、その見た目の面白さもあって被写体として歓迎される存在であろう。
 雨上がりにフィールドに出て探すと、いろいろなキノコに出くわす。彼らは面白い姿をしていながら、じっとたたずんでいるから撮影がやりやすい。マクロカメラでフォーカスを慎重にあわせて撮る。困ったことに、キノコというのは同じ種類でも発生状況や、時間の経過で姿を変える。図鑑を片手に調べても名前がわからないことが多い。おまけにたいがいの図鑑は食用であるか否かを主眼に編集されているものが多いから、マイナーなキノコは掲載されていない場合が多い。
 図鑑を見ると、色とりどり、姿形が珍妙なキノコたちがたくさん掲載されている。これらがステレオで撮られていたら相当面白いのにと思うのだが。だが、珍しいキノコや、状態がよいものを撮影することはかなりの努力が必要である。そんな苦労が図鑑の写真や記事を読むと伝わってくる。マクロステレオを持って山歩きをするというのも面白そうだが、もう一歩マニアックな情熱を燃やさないと難しそうである。というわけで、近所のフィールドで見つけた小さなキノコを紹介しよう。
 朽木に小さな傘が並んでいる。触ると結構硬い。これでは煮ても食えないだろう。立体写真は触った感じまでは取り込めないが、ビュアーを覗くとそのときの記憶がよみがえる。こいつらの名前を調べようと、いくつもの図鑑を開くが結局わからなかった。
きのこ.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年09月29日 10:00

洋行帰りのカメラたち

 子供の頃から身近にカメラがあった。フィルムを入れることはなかったが、いつもおもちゃにして遊んでいたカメラがある。PAX Rubyというカメラ。小さいがずしりと重く、しっかりした作りのカメラだ。だが、おもちゃ箱の中にレンズキャップも付けずに放り込んでいた。レンズの前玉は傷だらけ。なんともかわいそうなカメラ。なんとひどい僕。
 その他のたくさんのおもちゃはいつの間にかいなくなったのだけど、このカメラだけは手元に残っていた。ちょっと絞り環の動きが良くないのだけど、機械はしっかりと動いている。あるとき、レンズの傷を承知でフィルムを入れた。
 撮影したのは、僕がもう、一人で稼げるようになった頃の日常の風景。プリントすると、そこには傷の効果で、ソフトフォーカスで撮った様な、不思議な、だけど温かみのある風景があった。どこにも行かずにいてくれたカメラに感謝した。
 そんなわけで、このカメラの素性が妙に気になりだした。だが、調べてもあまり資料が出てこない。やっとの思いで判ったのは、大和光機工業という会社の、海外輸出専用のカメラだったのだ。そのため国内ではあまり流通していない。
 あるとき、松屋の中古カメラ市にうっかり足を踏み入れて、もう一台を手に入れることになった。あまり見かけない機種であったのと、きれいなレンズに惹かれてしまったのだ。たぶん、この市にたった1台だけの存在だったのではないか。
 家に帰って、シャッターの感触を楽しんでいてふと気付く。同じカメラが2台あるのだから、ステレオにできるではないか。小さいボディは並べてもコンパクト。だけど、一つはレンズが傷だらけだ。あれこれ考えているうち、輸出用ならebayで手に入るのでは?とひらめいて、とうとうもう一台を手に入れてしまった。まだステレオ撮影はしていないが、このカメラたちに愛称を与えたいと思う。とんきち、ちんぺい、かんた。生き別れの、同じ工場で生まれた三兄弟である。

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投稿者 J_Sekiguchi : 2011年09月22日 10:00

史上最大の宴会

 ここでは自分のことを「僕」と称している。だが、同年代ぐらいの初対面の方とお話をするとき、お互いにウルトラマン世代ですねぇ、と切り出すと気持ちが通じる年齢だ。で、特に歳が近い人だと、どちらかというとウルトラセブンが好きでしたねぇ、なんて話題に発展する。当時のちびっこ男子は100%、ウルトラセブンを視聴した経験を持つのである。
 こういうのは、キン肉マン世代とかガンダム世代というのと同じであろうが、ウルトラセブンは人気の高さから再放送が繰り返されたため、年齢層に幅があるという特徴があるみたいだ。僕も含めて、好きな人が多い。
 今から15年ほど前。出先の食堂でなんとなく手にした週刊誌に目が釘付けになった。ウルトラセブンにアンヌ役で出演の、ひし美ゆり子さんが本を出すという。で、サイン会が開かれるとも。当時のちびっこ男子は100%、アンヌ隊員が初恋の人である。これは会いに行かねばならない。サイン会の場所は、初台の小さな古本屋さんであった。
 今はもうないこの古本屋さんは、ひし美さんのお兄さんのお店。小さな路地にファンが列を作っていたのを思い出す。一人ずつ、時間をかけて話をしてくれるその姿は、噂にたがわぬ人を幸せにする人。会えてよかった。
 サイン会の後で、調布駅近くの台北飯店におじゃました。ここはご主人のお店で、チャーハンが絶品である。うまい料理を肴にビールを傾けていると、ファンのためにひし美さんがお店に来られたではないか。これにはびっくり。
 そんなご縁で、ファンの皆で開いたパーティにも混ぜていただいた。縁という不思議な力を感じたのだが、それは、ひし美さんの人柄が多くのファンを常に引き付けている、と思うのである。各方面で、また、ツイッターでもご活躍のひし美さん。これからも私たちのハッピーの中心で笑顔をふりまいてくださるだろう。

ひし美サン.jpg
▲ファンからの誕生日ケーキを手に

ひし美さん.jpg
▲ビデオシーバーで誰かを呼び出し・・・w

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年09月15日 10:00

日が沈まぬ国のカメラ

 ソ連が崩壊してから、彼の地のカメラはebayを通じて手に入れることができるようになった。僕がebayを始めた頃、ロシアからの出品物は比較的安価に落札できた。それは米国からの出品物に比べ、送金方法が面倒だったり、輸送時のトラブル懸念で不人気だったのだろう。僕も、ロシアの銀行にルーブルで入金しろといわれても困るので長く遠慮していた。
 あるとき、米国の出品者がFED・BOYを出していた。送金は米国に、だが、物品はロシアから送るという。送金方法に面倒が無いので、安価に落札させてもらった。紙紐で丁寧にくくられた荷は、何のトラブルも無く僕の元に届いた。
 かつて日本では高価で売買されたが、手に取るとさほど高価には見えない。安価に落札したと思っていたが、まあ妥当な金額だったということだろう。部品の作り方やメッキの仕上げなどに、他の国のカメラには無い妥協のようなものが感じられる。でも、我々からすれば妥協に見えるが、ここまでの品質でよいという共産圏のマーケット事情が背景にある。工業製品というのは、適度な競争がないと進歩が無い。製造現場からの改善も進まない。
 この国の昔のエピソードとして、聞いた話。国土に鉄道を引く会議で揉めているとき、権力者がこうすれば良いと定規とペンを取って地図上に直線を引いた。だが、定規から指がはみ出していたので、指の形にカーブした妙なでっぱりができた。なのに誰も修正することなく、そのままの形で鉄道が敷設されたという。信憑性はともかく、お国柄が感じられる話。
 ソ連崩壊の後は、ものの作り方もだいぶ変ってきたようであるが、やっぱり彼の地から買うカメラにはUSSRの刻印のある古いものが魅力的だ。品質がどうであれ、当時の時代背景に思いを馳せながら使うというのも趣がある。
 そう、わが国の東京西部を走る中央線も、定規で直線を引いて計画された。指の形のカーブがあれば面白いのに。

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投稿者 J_Sekiguchi : 2011年09月08日 10:00

⑦北欧の夕暮れ

 さて、舞台はスウェーデンの首都、ストックホルムに戻る。ここは、北緯60度近辺という高緯度に位置している。北海道の稚内でさえ北緯45度近辺だから、地理的な環境というのは日本とはだいぶ違う。なんといっても、四季の移り変わりに伴って日照時間の長短の変化が大きいというのは、日本に住む我々の想像を超えている。
 夕食を終えて、ちょっと一杯飲んで外に出る。でも、まだ外は明るい。なんだか、酔いの回りが早いような気がしながら、また別のところでビールを傾ける。ようやく日が落ちたのかなあ、というところで時計を見ると、もう22時前後。
 空がゆっくりと、しかし確実に暗くなってゆく。空が深い紺色に落ちてゆくと、ライトアップされた古い建物がその存在を誇示しているかのように美しく輝く。空の色とのコントラストが美しい。空の明るい時間が長い季節とはいえ、この美しい時間帯というのはやはり短い。夜の暗闇は、足早に町をすっぽりと覆い隠してしまうのだ。
 露出計のメーターが、だんだんと鈍く反応する。空の明るさが減ってゆく。こういう条件で撮影するには、小さくてもよいから三脚が必要だ。だが、あいにくこのときは三脚を持っていなかった。シャッタースピードが遅い。手持ち撮影ではどうしてもブレやすい。橋の欄干や、電柱にカメラを押し付け、構えにくい格好でファインダーを覗く。
 ファインダーの奥には、小さな光が動いている。車や電車の明かり、水面に反射する灯火が瞬いている。それぞれの光の配置はこれでいいだろうか。覗きにくいファインダーで構図を何度も確認する。
 うまく撮れますように。そう祈りながらシャッターを押す。小さなガバナー音が、シャッターがちゃんと働いていることを教えてくれる。何回かシャッターを切るうちに、辺りはすっかり夜の闇に包まれていた。(スウェーデンの旅・おわり)

ストックホルム夜1.jpg

ストックホルム夜2.jpg

ウトックホルム夜1.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年09月01日 10:00 | コメント (2)