STEREO CLUB TOKYO

« 2011年11月 | メイン | 2012年01月 »

東京天文台

 夜空の明るい東京。星が見えない東京。その東京には大きな天文台がある。国立天文台である。“くにたち”じゃないよ。“こくりつ”だ。でも、場所は“くにたち”からちょっと都心寄りの三鷹にある。昔は東京天文台という名称だった。
 ここには世界屈指の大望遠鏡がある。カール・ツアイス製65cm屈折望遠鏡だ。最近では小さな天文台でも65cm級の望遠鏡がある。だが、それらは全部反射望遠鏡なのだ。超大口径のレンズを使った屈折式望遠鏡はいまでもかなり珍しい部類に入る。口径は同じでも屈折式は巨大なシステムになる。今の時代、巨大な屈折望遠鏡は作られていない。
 国立天文台は予約なしに一般見学ができ、現役を退いた大望遠鏡達を間近に見ることができる。これらは、どれも昭和初期に設置されたものばかり。今では新たに作られることのない、巨大な望遠鏡の姿はまさに圧巻だ。
 天文台の大きなドームがある建屋に一歩踏み入れると、古い設備であることがすぐに感じられる。屈折望遠鏡はミラーを使った反射望遠鏡よりも全長が長い。ドームも巨大なものになり、天井が高い。なんとドームは木でできている。
 不思議な雰囲気の場所だ。未知の世界を探求した人々の思いが残っているような気がする。奥の方から、白衣を着た白髪の博士が登場しそうな感じ。今では使われていない望遠鏡だが、今でも使用できる状態にあるという。
 望遠鏡があまりにも巨大すぎて、カメラのフレームに納まらない。僅かな明かりが高い天井をほのかに照らしている。薄暗い室内。スローシャッターで露光をしなければならない。ドーム天井の木の雰囲気が出るよう、慎重に露出を決定する。三脚を持ってこなかったので、呼吸を整えてシャッターを切る。この雰囲気をステレオで残したい。
 ドームの外には、満天の星空が広がっている姿を想像しながら撮影した。かつてはそこにあった、素晴らしい星空を。

大赤道儀室.jpg

65センチ屈折.jpg

もと画像(フィルム)は、雰囲気を出すためにアンダー気味に露光しています。
WEBでは黒がつぶれすぎて見えずらいため、コントラストと明るさを上げています。
そのためざらついた画面になっていますが、ビュアーを通してみたフィルムは透明感が素晴らしいですヨ。

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年12月29日 13:00

糊付名人

 紙マウントの自作についての続きのおはなし。厚紙から切り抜いたマウントを貼り付けるのに、スティック糊がいいよとご紹介したのだが、もう少し塗りやすいものがないだろうかと作業のたびに悩んでいた。固形の糊を押し付け、丁寧に塗るのだが。どうしてもマウントの窓のところとか、縁のところでこの固形の糊が削れる。削れたカスがあちこちにまとわりついてベタベタになるのだ。これが煩わしい。カスを指で拭うのでベタベタ。何とかしてよ、このベタベタ。
 どんなものが塗りやすいのかなあ、なんて日々考えていた。前に住んでいた家は障子があって、年末になると張り替えていたなあ、なんていう思い出と重なる。障子は障子糊で貼るのだが、お湯でのばしたでんぷん糊を使う。これを刷毛で塗るのだ。障子を綺麗に張るにはコツがあって・・・いや、障子のハナシではない。そうだ、刷毛で塗ろう。
 マウントに糊を塗るのなら、大きな刷毛ではなく、小学校の図画工作で使うような水彩絵具用の筆がいいかも。ちょっと扁平のやつがいいかな。これにちょっとゆるい、流動性のある糊を塗ればいい。なんかいけそうじゃないか。
 ただし、でんぷん糊ではダメ。塗った後に乾かしてドライな状態にし、熱で接着できるものじゃなきゃダメだ。糊とはいえ、熱可塑性プラスチックの仲間、樹脂成分でできた糊じゃないとダメだ。さて、どんな糊がいいか。
 スティック糊の主成分、PVPはポリビニルピロリドンといい、水溶性のプラスチックである。これをお湯で溶かす、なんていうのはめんどう。他に探すと、アラビックヤマトがあるじゃないか。昔は天然成分のアラビアゴムを主成分としていたので名前に名残があるが、今の主成分はPVAL、ポリビニルアルコールという樹脂だ。これを水でのばして筆で塗り、乾燥させた。ちゃんと「楽ちんマウント大作戦」で紹介した方法で、バッチリ接着できるよ。

のり.jpg
PVAL(別名ポバール、PVAとも)
視認しやすいようインクでブルーに着色しています。
塗りやすい粘度になるよう、水を加えてください。
(PVPはお湯で溶かせますけど、泡立つので使いにくいですヨ)

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年12月22日 10:00

⑥広場での出会い

 昨年、2010年の7月にテレビのニュースで紹介されていたのが、グラン・プラス広場を色とりどりの花で敷き詰め、絨毯のように飾る祭りの様子だった。たくさんのベゴニアの花を使うそうである。
 この祭り、隔年で実施され、その期間も3日間だけという。テレビの画面からでも、十分美しさが伝わってくる。その場に居合わせたら、どんなに幸せなことだろう。僕が訪れたのは祭りの無い年だった。
 グラン・プラスは長方形の敷地を歴史のある建造物が周りを囲む。ゴシック建築の市庁舎、かつては王の家と呼ばれた市立博物館、ギルドハウスなど。オープンカフェやレストランも並んでいる。
 広場の中心に立って、ぐるりと見渡すだけで、過去にタイムスリップしたような気分になる。祭りの時期でなくとも、この大きな石畳の広場にはたくさんの観光客が集い、街の人たちの憩いの場でもある。
 リアリストを首からぶら下げて散策していると、子供たちが列を成して広場に入ってきた。幼稚園か、小学校低学年のちょっとした遠足だろうか。列の前後には引率の先生方だろう、ちょっと年配のご婦人が付いている。
 早速、子供たちが鬼ごっこを始めた。あちこち駆け回る子供たち。時折、先生が子供達に注意を促す大きな声が広場にこだまする。子供たちはそんなことにはお構いなし。はしゃぎまわって、駆け回る。
 そのうち、子供たちが僕のリアリストに気付き、興味深そうに覗いてくる。3Dカメラだよ、と言うと、なぜかレンズを覗き込む。一人がやると、みんなやりたいのだね。笑いながら覗き込むのがかわいい。
 子供達に「写真を撮るよ」と言うと、みんなで並んで笑顔を向けてくれた。では、またね。(ベルギーの旅・おわり)

グランプラス3.jpg

グランプラス.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年12月15日 10:00

⑤ルーツはおなじ

 欧州の都市を訪れると、教会に行ってみるというのがお決まりのようになった。ブリュッセルにも大きな教会がある。聖ミッシェル大聖堂である。15世紀に完成するまで、300年を要したという。
 地図を頼りに、緩やかな長い上り坂をのんびり歩く。坂を上りきったとき、それと一目でわかる建物が視界に飛び込んでくる。小高い丘の上に建っているので、教会の入り口で振り返るとブリュッセルの町並みが見渡せる。
 中に入ると、静かで薄暗い。この教会も内部の明かりはステンドグラスとろうそくの灯火だけ。左右を見渡すと、大きなステンドグラスがずらりと並ぶ。その図柄は聖者の伝記に基づくものなのだろう。ひとつひとつ、眺めてゆくだけで時間の経つのも忘れそうになる。これらの絵は、どのような物語を記しているのであろうか。
 精巧に造られたそれらは、宗教的な意味合いだけでなく、美術品としても貴重な存在。五百年を超える昔に、これだけのガラス工芸技術があった。ガラスに着色するには、様々な金属や、金属酸化物などを混ぜて発色させる。透明で美しい、濁りの無い着色ガラス。きれいな赤を出すには金を混ぜることもあるという。
 ガラスというのは不思議だ。加えるものやその量で色味が生き物のように変わる。ステンドグラスの職人たちは、イメージに合った色を出すのに何度も試行錯誤をしたのではないだろうか。決して簡単な道のりではなかったはずだ。
 レンズもガラスでできている。屈折率を変えるためにいろいろな添加物を加えている。収差を打ち消すために、異なる屈折率のガラスを組み合わせるためだ。ここにも苦労の積み重ねがあっただろう。
 レンズ技術のルーツを辿れば、ステンドグラス職人達の苦心の技に、きっと行き当たるに違いない。(つづく)

聖ミッシェル大聖堂.jpg

聖ミッシェル大聖堂2.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年12月08日 10:00

④ベルギーといえばビール

 ブリュッセルの大広場、グラン・プラスにつながる路地には、軒にテーブルを並べた飲食店がひしめいている。夕闇が迫ると、この辺りが一段とにぎやかになる。テーブルに客が付き出すと、活気が出てくるのだ。
 こういった歴史のある通りというのは、照明も落ち着いていて、なかなか良い雰囲気。ネオンギラギラ、昼間のように蛍光灯やらハロゲンランプで照らす、というのではマッチしないのだ。照明というのは色味をちょっと変えただけで雰囲気が大きく変わる。その場所に最適な照明というのは自然に決まってゆくのだろう。もし、新宿の繁華街がここと同じような照明だったら・・・怖くて誰も寄り付かなくなるかも。
 訪れたのは初夏にさしかる時期だったので、アスパラガスをメインにした料理をいただいた。ベルギーに限らず、この季節はどの国も旬のアスパラガスを食べるのだ。日本で言えば、たけのこのようなものか。
 このほか、貝類の料理もなかなかにおいしい。ただし、貝類はアタるとかなりきつい。生に近いような料理は用心したほうがい。過去に当たりを引いた人を何人も知っている。酒は消毒にならない。
 欧州で酒といったらワインを連想する人も多かろうが、この国ではビールを第一にお薦めしたい。日本では琥珀色で透明なピルスナータイプばかりだが、ベルギーには多種多様な味わい深いビールが語りつくせないほどあふれている。酵母が生き、ビンに詰められてからも醗酵を続けている、なんてものまであるのだ。
 そんなわけで、良い雰囲気の中でおいしい料理と最高に旨いベルギービールを堪能させてもらった。ここも日本より高緯度にあり、闇が空を包み込むのはゆっくりと進む。宴の声はいつまでも通りにこだましていた。(つづく)

グランプラス(夕.jpg

グランプラス(夜.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年12月01日 10:00