STEREO CLUB TOKYO

ネジの補修

 カメラの分解とか組立で怖いのがネジ山のつぶれ。ちょっとした力の入れすぎで、止まるはずのネジが空回りしたときのあの嫌な感覚といったら。力を入れたつもりはなくても、繰り返しネジを回しているとネジ山がくたびれてくる。いつ空回りするかわからないのは黒ひげ危機一髪と同じドキドキ感です。
 とはいえ、どんなネジもこんなふうになるのではなく、ネジ穴が切られている方の素材がアルミや樹脂だったりする場合に起きやすい。つまり、壊れるのはネジ穴の方のネジ山だ。ネジ本体の方はたいがい硬いスチールでできているので、素材の硬さのアンマッチが引き起こす厄介な現象というわけだ。
 これを防止する方法にヘリサートを使うことがある。やや大きめのネジ穴を作っておいて、スチール製のバネのような形の「ヘリサート」をねじ込んでおく。こうするとネジ穴が補強されるので、壊れる確率がぐっと低くなる。コストアップになるので頻繁に使われることのないこの方法、修理に応用することができる。
 ペンタックスの昔のワインダーは、樹脂製の電池室の蓋に直接ネジ穴加工をしている。ここが壊れている機体は多い。これを修理したのでご紹介。ネジサイズはM3。スチールナットを買ってきて、外側をヤスリで削る。薄くなるまでひたすら削る。削る・・・そうするとパイプ状の部品ができる。元のネジ穴を広げて挿し込み、エポキシ接着剤で固定する。ヘリサートとは違うけど、こういった薄いネジも補修可能な応用だ。
 アルミボディのステレオリアリストにも、ネジ穴の怪しい機体があるのだけど。いずれこの方法を使おうと企んでいる。ヤスリ一本と根気があればけっこういろんな部品が作れたりするという一例でもあり。


ネジ補修前.jpg
左から加工前のナット、加工後のナット、同じサイズのネジ

ネジ補修後.jpg
上手に固定すれば違和感のない仕上がりに。

投稿者 J_Sekiguchi : 2014年03月13日 10:00

元に戻そう

 ステレオリアリストを何台も持っていると、機体によって部品の細部が微妙に違っていることに気付いたりする。オリジナルの状態で違うものもあれば、何代かオーナーが代わってゆく過程で手を加えられているものもある。ナイスな改造もあれば、なんだこれと思うものも。まあ、ほとんどは「なんだこれ」なんだけど。
 そんな一台にエクターレンズ付のものがある。めったに利用しないYahooオークションで落札したものなんだけど、巻き上げノブと巻き戻しノブのてっぺんがピカピカなのだ。鏡面のように光っているうえに錆びている。こんなものは普通入札しないのだけど、エクターレンズなのにありえない金額だったのだ。国内では希少性の認知度が低いため、競争が起きなかった。現物確認で、ノブ以外はオリジナルで、機械も正常だとわかった。
 こんなノブは見たことがないので、後から手を加えたものだろう。オリジナルは同心円のヘアライン仕上げのはずである。たぶん、傷が付いたかして磨いたんだろう。ヘアラインを作るより磨き上げた方が簡単だしね。
 このピカピカ、どうにもカッコが悪い。一度、別の機体のノブと交換したけど、ギアの噛み合わせがしっくりこないので戻した。我慢して使っていたけど、そろそろこれを手直ししてカッコいい状態に戻してあげよう。
 ノブを外し、粗めのサンドペーパーで錆を落としながら平面を出す。この「平らに削る」というのを手作業でやるのにコツが要るのだ。どんなコツ?といわれても言葉で説明できないんだけど。平面が出たら#2000のペーパーで一旦粗削りの切削跡を消す。さてここからが技。ノブの軸穴に心棒をあて、サンドペーパーの上で回転させる。慎重に削ると、手作業でも機械で加工したような切削跡ができる。見違えるようにカッコいい。

 


修正前のピカピカ状態を撮り忘れました。
だからといってまた磨き、ピカピカに戻して撮るのもねぇ・・・

投稿者 J_Sekiguchi : 2013年06月13日 10:00

工具の手入

 カメラの修理をする上で、最も重要な工具はドライバーだろう。古いカメラには小さなネジが何本も使われている。これを回すのに、ネジの大きさに合わせてドライバーを選択する。合わないものを使うと、ネジの頭をひどく傷つけたりする。古いカメラをよく見ると、ネジの頭のきれいなものは少なかったりもする。
 ちゃんとした職人なら、ネジの頭を傷つけずに回すことができるが、素人がやるとドライバーがネジから逸れて、ネジの頭のきれいな溝をいびつな形につぶしてしまう。昔のネジの頭はいわゆる“マイナス“の溝がある。
 正式にはこの溝は”すり割り”という。‘50年代のカメラに使われているのは、ほぼ全てこのタイプ。現代ではプラスと呼ばれるものばかり。プラスネジは扱いやすいため、工場がコンベア化されると共に急激に需要が伸び、すり割を駆逐した。だが、すり割りネジは締め付けにトルクを伝えやすく、そういった分野には今でも使われている。
 さて、トルクを伝えやすいすり割りも、ドライバーの使い方が悪いと効果はない。精密ドライバーの尻に付いている回転座。これはドライバーをネジに押し当てても回転させやすくする工夫なのだ。ネジを回すときは、締めるときも緩めるときも、ドライバーを強くネジに押し当てる。ただし先端とすり割がきちんと合致していること。
 ドライバーは使えば磨り減ってくる。定期的に手入をすることが大事。ヤスリや砥石を使い、ドライバーの先端をきれいに整える。ピンセットなどの道具も同じ。かみ合わせに隙間ができないよう、慎重に、丹念に仕上げる。
 整えた形が良いか、ルーペで確認する。さて、自分の思い通りに仕上がっているだろうか。気持ちが落ち着いていないときにやると、それが表れてしまう。ネジを回すということにも、いろいろあるということだ。

投稿者 J_Sekiguchi : 2013年03月21日 10:00

潤滑油の考察

 カメラに限らず、機械には潤滑剤が使われる。つまりは機械油。潤滑剤の役割は、金属などの接触面の間に薄い膜を作ることで抵抗を減らしたり、接触面が高速で摺動することで生じた熱を伝達し、拡散させることである。
 もう一つの目的は、金属表面を油の膜で覆い、空気と遮断し錆を防ぐこと。ただし多すぎる油の塗布はあちこちに回り込んで、本来の目的以外に、機械構造に悪影響を及ぼすこともあるから注意したい。
 一口に油といってもいろいろな種類がある。まず、粘度。さらりとした油もあれば、ねっとりとしたものもある。特に粘度が高いものにグリス。これは油と石鹸を混ぜ合わせたものだ。これにも豊富な種類がある。
 カメラのシャッター機構や時計に使われる油は比較的さらりとしたものが多いが、気をつけなければならないのは低温でも粘度が上がらないこと。油は一般的に温度が下がるほど粘度が上がる。冬場の寒冷地で使うときなど、作動不良につながるからだ。低温でも粘度が上がらないことだけでなく、実用温度の範囲で粘度変化が少ないものが、安定した機械動作に不可欠ということになる。こう考えると、油の選定はとても大事に見えてくる。
 それに、油はそれ自体が酸化して性質を変えるから、精製度合いの低いものを使うのはダメなのだ。 鉱物油、つまりは石油由来の油というのも便利だけど、石油系の油でも精製度合いが低いものは硫黄分が多く、これも長期間の使用には変質の元になる。また、スプレー入りの潤滑油は揮発成分が多く、これも向かない。
 僕は、妻殿がお肌に使っているスクワランオイルをちょっと借りて使っている。深海ザメの肝臓から精製した油。低温でも安定している。とってもいい油なんだけど、とっても高価である。だから、ほんのちょっとだけもらう。

投稿者 J_Sekiguchi : 2013年03月14日 10:00

シャッターの故障

 初夏の天気のよい日に旅行に出かけ、リアリストでフィルム数本分の撮影をした。帰ってからまとめて現像すると、どれもアンダーになっている。おかしいな。アンダーになる原因に思い当たる節が無い。もしシャッターに異常があるなら、開きっぱなしになることのほうが多いはず。やっぱりカメラの問題じゃないのか。そんなわけで、あまり深く考えずに同じカメラにフィルムを入れて出かけたわけ。でも、どうしても気になる。
 フィルムが古かったか、現像上のトラブルかとも思ったが、もしそうなら別の現れ方をするはずだ。やっぱり原因はシャッターか。僕は屋外の撮影で1/100secを常用している。これよりシャッタースピードが上がるとすれば、ガバナーが効いていないことになる。試しに、シャッターを遅くし、レンズカバーを閉じてシャッターを切ってみる。おや?シャッター音が違うぞ。多重露光モードで、もう一段遅くしてシャッターを切る。やっぱりおかしい。どうやらガバナーが効いていない。ガバナーの作動音がしないのだ。常に最高速でシャッターが切れるようになってしまっている。
 出先なので急遽、露出を1/200secで設定して撮影を続けた。このフィルムを撮り終えたらカメラを修理すればいい。帰ってからガバナーを点検したら、歯車列を駆動する扇形のギアが引っかかっていた。何でこうなってしまったか判らないが、よくチェックすると、再発する可能性があることがわかった。いちど分解清掃して再組立の必要がある。このときに撮影したフィルムは、途中から露出を変えていたので大部分が正常に撮れていた。
 何か違った現象が起きたときは、必ず何らかの原因があるのだ。安易に考えてはいけないという教訓だった。でも、カメラの構造を知っていたおかげで、トラブルに対応することもできたのだ・・・という雑ネタでした。

シャッター不良.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年04月07日 10:00

巻上げが重いナ

 リアリストを使った人なら、誰もが感じるのが「フィルム巻上げのノブが重い」であろう。重症の機体になると、ノブのギザギザが指に食い込んで痛い。なんでギザギザになっているんだ!と憤慨するほど重いことがある。これでは撮影する気力も失われるというものである。快適に操作ができないカメラでよい写真が撮れるはずがない。
 そんなわけで、以前にメンテナンス方法を紹介した。分解して古い油と汚れを取り除き、注油することで巻上げが驚くほど軽くなるのだが、僕が持っている機体の中で特に軽いものがある。フィルムが入っていないんじゃないかと思われるような軽さで、スイスイノブが回るのだ。フィルムの終わりの端まで、ストレスフリーで巻き上げることができる。
 何でこんなに軽いのか、よく考えてみた。普通、メンテナンスをしても多くの場合はフィルムの終わりのほうでだんだんと巻上げが重くなる。たぶん、巻き上げスプールとフィルムが完全に平行じゃないためだろう。特に巻き上げの軽い一台は、たまたまスプールの位置がベストな状態なんだろう。さて、巻き上げ機構を分解してみよう。
 スプールは中空になっていて、組立のときに巻き上げ軸が差し込まれるのだが、スプールが軸に対して斜めに固定されると巻上げが重くなるのだろう。スプールの下側に軸をガイドする穴がない。これがわずかに平行にならない原因だ。
 改良案がある。ポリプロピレンの下敷きのような、加工のしやすいプラスチックのシートを用意する。これでドーナツ状の円盤を作り、スプールの下側にセットする。ドーナツの穴は巻き上げ軸の径に合わせておくというもの。これならスプールは平行になって、巻上げが軽くなるはずである。同心円になるように注意深く加工しなければならない。
 この改良案、まだ試してはいないが、きっと良い結果が得られることだろう。結果は・・・そのうち報告しよう。
巻き上げ.jpgスプール改良.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年03月03日 10:00

初期の巻上げ機構

 リアリストのフィルム巻き上げ機構については以前に紹介したのだけど、これはラチェットを使った機構について解説したものだった。エクターレンズが付いたものなど、初期のリアリストはラチェット機構を使っていない。後ろ蓋をあけて、フィルム巻取りスプールの上のほうをよく観察すると、この機構を観察することができる。ちょっと見えづらいけどね。
 どうなっているかというと、スプールの軸に巻きバネをかぶせるようにセットしてある。上面のダイヤルを「A」にすると巻きバネが締まり、「R」にすると巻きバネが開くようになっている。巻きバネの内側は研磨がしてあって、スプールの軸にピッタリ密着するようにしてある。バネが締め付けて、スプールの回転を止めるようにしている仕組だ。
 こういう仕組だから、組み立てる時には、ダイヤルを「R」にしてバネを広げてやらないとスプールの軸が差し込めない。ちょっとした工夫がいる。また、この巻きバネの内側や、スプールの軸に錆が出ていると回転が重くなったり、回転のロックがうまくかからなかったりするだろう。摩擦を使う機構だが、ここに潤滑油が塗布してあっても滑らず、機能に影響はないようだ。
 それにしても、単純な部品でよくできた機構だと思うのだけど、どうして途中からラチェット機構に変えたのだろう。そのほかの機構はほとんど変わっていないのに、である。ここからは僕の勝手な想像なんだけど、内側を研磨する特殊なバネの製造にコストがかかっていたのではないかと思う。力をかければ容易に変形するバネを、研磨して寸法を正しく仕上げるというのは難しかったんじゃないだろうか。寸法ばらつきが大きく、歩留まりが悪かったんじゃないだろうか。
 ラチェット機構に変更し、歯車を型鍛造で作れば寸法のばらつきは少ないだろうし、多少の寸法外れがあっても、歯が欠けていなければ機能としては正しく働くはずだ。工業製品の製造現場というのは、いつの世もコストとの戦いです。

旧巻上げ.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年02月24日 10:00

腐海の菌を殲滅せよ

 レンズに生える厄介なカビ。見つけたときのショックは大きい。白っぽい、くねくねとした腕のような菌糸が、レンズの表面を這っている。それにしても、ガラスという無機質なものの上で、一体何を食べて生活しているのだろう。菌類の生態というのは不思議なものである。この菌は、アスペルギルスというコウジカビの仲間だという。
 こんな困った奴らだが、世の中になくてはならない存在なのだ。枯れた植物や動物の死骸などを土に還してくれるのは彼等しかいない。土中の微生物たちの役割なのだが、分解しづらいものまで片付けてくれるのは菌類だけだ。それに、人間の生活に欠かせない発酵食品を作り出すのも彼等の不思議な力の為せる技というわけだ。
 カビが生えないようにするには、常に清潔にしておくしかない。菌類は湿気が好きだというイメージがあるが、乾燥した環境を好む種類だっている。大事なのは、レンズ表面に胞子が定着しないようにすることだ。とはいっても、生えてしまったらどうしよう。クリーナーやアルコールでもきれいには取れない。ムリヤリ研磨をする人もいるようだ。
 では、僕が秘策をお教えしよう。偶然発見したのだが、酵素の力だろう、唾液をつけると菌体が溶解してきれいに除去できる。カビによる腐食の跡までは除去できないが、かなりカビが繁殖したレンズでも実用域まで回復できる。
 全くの我流だったのだが、あるTVでやっぱり有効だということがわかった。カメラの修理業をしている職人さんが、レンズに生えたカビを簡単に取りますという。あろうことか、手に持ったレンズの玉を口の中に放り入れた。もぐもぐした後に取り出し、布で拭いてハイ出来上がり。なんとまあ、カビを食べちゃったわけだ。
 口に入れるかどうかは別として、この方法でカビを除去した後はクリーナーでよく清掃しておいてください。

レンズをかもすぞ.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年02月03日 10:00

マット・ブラック

 カメラに限らず、光学製品の内部にはツヤ消し黒色塗装が施してある。乱反射の防止である。黒い色というのはご存知の通り、全ての波長を吸収するから黒く見える。光が当たって、はねかえってこないから黒いのだ。だけど、黒い塗料をそのまま塗っても、角度によっては光を反射する。つまり、ツヤ。このツヤを消すには、細かい粒子を塗料に混ぜればいい。たぶん、塗膜の表面がミクロレベルでデコボコになるから、反射する光が小さくなるのだろう。
 僕は、カメラの修理で内部にツヤ消し塗装をするときは、プラモデル用の塗料を使っている。ツヤ消し黒とか、マット・ブラックと表示してあるものもあるが、いまひとつツヤ消しになりきらない。微粉末を混ぜると、とても良いつや消しになるので、僕はたいていこの方法を使っている。混ぜる微粉末はどんなものでもつや消しになるみたいだが、小麦粉なんかを使ったら後でカビが生えそうなのでやめておく。セラミックスの粉末があればベストだ。
 とはいっても、セラミックスの微粉末なんてなかなか手に入るものじゃない。だけどあるんだな。歯磨き粉だ。香料が入っていない、粉末タイプのものが一番いいんだけど、普通のチューブに入っているものでも大丈夫だ。にゅるっと出して塗料に混ぜてやるとちゃんとツヤ消しになる。ただし、塗料は水溶性のものにしておかないとうまく混ざらない。
 まあ、こんなハナシは参考程度にしていただいて。というのも、望遠鏡の修理で歯磨き粉を混ぜて塗装をしたときのことだ。面積が広かったのか、香りの強い歯磨き粉だったからか。修理は完璧で、星の像は見違えるほど良くなっている。星を観察していると、どこからともなくミントの香りがする。嫌いな香りではないけど、塗りなおすとこの完璧な光軸調整がまた崩れてしまう。というわけで、香りが抜け切るまで、香りを楽しみながら使わなければならない、ということになった。

マットブラック.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年01月27日 10:00

レンズカバーの修復

 リアリストのレンズカバーは以前に紹介したことがある。ベークライトでできているので、これが割れるとなんとも情けない格好になってしまうのだ。だが、スペアを手に入れることができる。ebayにも数多くのステレオアイテムを出品しているDr.T氏がいくつかの在庫を持っているようだ。彼が時折出品するので、スペアのカバーを購入しておくとよい。
 僕も彼からスペアを購入したことがあるが、これは後期モデルのCUSTOMに使われていたものと同じだ。丸いでっぱりが無く、「Realist」のロゴも入っていない。CUSTOMにはロゴ入りのアルミプレートが取り付けられるが、プレート無しでもそれなりにカッコいい。僕が特別にチューンした一台は、このロゴ無しのレンズカバーを使っていた。
 ある日、バッグに入れた状態で無理な力をかけてしまい、レンズカバーを壊してしまった。落としたのではないから粉々になるのは免れたが、きれいに二つに割れてしまった。スペアを持っていたのでこれに付け替えようと思ったが、壊れたからといって捨ててしまうのはもったいない。うまくつなげば直るはずだ。というわけで、シアノアクリレート系の接着剤、平たく言えば瞬間接着剤でくっつけた。瞬間接着剤は便利だが、一般的には万能ではない。だが、ベークライトに対しては完璧な接着を発揮するのだ。隙間が無いように張り合わせると、完全に一体化する。少し磨けば、接合の跡も目立たない。
 せっかくチューンした機体に取り付けたのだから、オリジナルのプレートを取り付けてみようと思った。金属で作るのは大変だから、紙と粘着シートで作ってみた。銀色で梨地の紙があったので、これを長方形に切り取り「Realist」のロゴをスタンプした。この上から透明な粘着シートを貼り、耐久性に問題が無いようにした。レンズカバーには両面テープで貼り付け。カメラ本体の銀梨地とマッチしている。いいかんじでしょう。

NEWカバー.JPG

投稿者 sekiguchi : 2010年06月11日 10:00

フォーカスの調整再び・後編

 さて、お茶を飲んで気持ちをリラックスしてから調整の作業に入る。まず、遠景の被写体で距離計にずれが出ていないことを確認しておく。これをやっておかないと後で全部の調整がやり直しになる。ここで紹介するのは、前に紹介した遠距離を基準としたものではなく、近距離の被写体でばっちり調整する方法だ。
 テーブルに小型三脚を置いて、カメラを載せる。レンズの絞りを開放にし、シャッターをTにして開ける。ピントグラスを、ガタつかないように輪ゴムを使ってフィルムレールに密着させる。さて、被写体は何にしよう。テレビをつけると、日曜だったのでゴルフトーナメントがやっていた。これにしよう。部屋の照明を落とした状態のテレビ画面はピントグラスでよく見える。また、ゴルフでは画面の隅にスコアが小さな文字で表示されるので、これを使うと正確な確認ができる。
 被写体までの距離は、距離計を使って約4フィート。ピントグラスで像を確認すると3フィート強になっている。一度分解したので、初めからこうなっていたのではない。この状態は、フィルムとレンズの距離を大きくするよう調整する。フィルムレールの調整ネジを右に回す。尻に目印をつけたドライバーで少し回して距離計に合わす、という作業を繰り返す。
 まず右フレームのセンターで合わせ、次に左のセンターで合わせる。もう一度右のセンターを確認する。次は右の上ハジで合わせ、次に左の上。右の下に移って同様に調整する。全部調整したら、ネジが4本なのでどこかレールにガタがあるはず。ガタの位置を確かめたら、1本だけ低くなっているネジをゆっくりと右に回してガタを取る。カメラに耳を当ててレールを触り、慎重にガタを確認する。ここまでやったら、もう一度左右のフレームの各部分でフォーカスが出ているか確認。ネジの回り止めの処置をしておしまい。ちょうどゴルフの番組が終わったところだけど、誰が優勝したのか覚えていない。

鮎の塩焼き.jpg
近距離でもジャスピン(笑)

投稿者 sekiguchi : 2010年03月16日 10:00

フォーカスの調整再び・前編

 久しぶりにリアリストのお話。手持ちのリアリストの中で、特別にシャッターをチューンした1台があるけど、そのときに調整したつもりのフォーカス位置が合っていないことに気がついた。これはもう一度調整しなければならない。
 ところで、リアリストのフィルムレール、つまりフィルムが乗っかって擦動するところは黒い塗装がしてある。前から疑問に思っていたのだけど、寸法精度とか、面の平行度が厳しく要求される部分には塗装はしないものである。近代的なカメラになるとこの部分は精巧な工作機械で切削されていて、金属の素地が出ているのだ。もっとも、リアリストの場合でもごく後期のもの、CUSTOMなどは塗装ではなく切削した金属面になっているものがある。
 せっかくフォーカスの再調整をするなら徹底してやってみることにした。フィルムレールを外し、フィルムとのコンタクト面を水平に研磨するのだ。600番のサンドペーパーから始まって、4000番まで使って仕上げる。平らな面にペーパーを置いて、力が偏らないように磨りあげるのが一番大事なところ。匠の気持ちで仕上げてゆく。削って気がついたのが、オリジナルの塗装の状態のままでも平面性は悪くない。しかし、ここはスペシャルに仕上げよう。
 仕上げたフィルムレールを再び組み入れる。そこにフォーカス確認用のスクリーンをセットする。適当なすりガラスが無かったから、透明なガラスをガラス切りでカットして、この上に乳白色の薄いフィルムを貼り付けた。精度よく調整するには、このフィルムはできるだけ薄いほうがいい。あまり厚いものだとどこにピントがあっているのかわからなくなる。フィルムレールには調整用のネジ穴があり、ガラスはこの穴を避けるように窪ませなくてはいけない。荒い砥石でゴリゴリやって作ったのだけど、ここまでくるのに一苦労。次は精神力の要る調整作業だ。さて、いっぷく一休み。

ピント調整A.JPG

投稿者 sekiguchi : 2010年03月12日 10:00

リアリストの梨地再生

 他のカメラのひみつを探ってきたが、もう一度リアリストを手に取ってみよう。と思って棚から取り出すと、なんとトップカバーの銀梨地一面に不穏な斑点がタクサン!
 保管の方法が悪かったのかな?…いや、海に行ったあときれいに拭いておかなかったからか?…後悔しても後の祭りである。斑点は錆のようなものみたいで、アルコールやクリーナーでは取れない。よく観察すると、場所によってはメッキ下地の銅が腐食して緑色の錆も浮き出ている。まいったナぁ。銀梨地の再生は難しいのである。メッキをし直すとしても、クロムメッキは難しい。良い子が使ってはいけない薬品が必要だし、素人が勉強して出来るほど簡単ではない。比較的簡単なメッキとしてはニッケルメッキがある。処理薬品も市販されている。でもニッケルメッキは柔らかい。それに比べクロムメッキはとても硬いのである。
 ン?硬いのなら多少コンパウンドでこすっても剥がれないかな?リアリストのメッキは厚めでもあるし。というわけで、自動車用コンパウンドの荒目で丁寧にこすってみた。すると簡単に斑点が消えるではないか。おまけに梨地の光沢はヘンになるどころか作られた当時の上品な光沢が蘇った。汚れもすっかり落ちて見違えるようになった。
 こうなるとノブのローレットの汚れも目立ってくる。溝の一つ一つを楊枝でこすってみる。苦労の割にきれいにならない。では奥の手。ノブを取り外してキッチン用の漂白剤に浸ける。ケチらずに2時間ほど放置して、ブラシでこする。これまた見違えるほどきれいになった。加工の刃物の跡まで見えるほど光っている。
 一部、黒い文字の塗料が落ちてしまったのでプラモデル用のエナメル塗料で補修した。針のように削った楊枝で塗る。少々はみ出しても良い。半乾きのうちにペーパーでぬぐうと溝だけに塗料が残る。
 まねしても良いけど、コンパウンドは注意深くこすってね。

磨き.JPG

投稿者 sekiguchi : 2008年05月24日 20:51

シャッターのチューニング(補足)

 前回まで、シャッターのチューニング方法について紹介したが、シャッターの設定には「T」と「B」がある。両方の設定があるステレオカメラは珍しいが、これらのシャッター機構はなかなか凝ったものになっている。設定カムをTまたはBにすると、設定カム①によりガバナーのスロー制御が解除される。シャッターをチャージすると、シャッターボタンに連結する保持爪②に回転リング③が掛かり保持される。レリーズするとこの保持が解除され、回転リングが時計回りに動き出す。B、T以外であれば、回転リングはガバナーで制御されながら動くことになる。B、Tの場合、保持爪②の下にもう一つの保持爪④が用意されていて、シャッター羽が開口した位置で再び回転リングをキャッチする。B、T以外ではこの保持爪④が作動しないよう設定カムが働く。
 Bの場合はシャッターボタンを押している間、保持爪④がキャッチをし、Tの場合は2回目のシャッターでリリースするようになっている。Tの場合、2回目のシャッターは多重露出防止のロックがかかるのでこれを解除しなければならないのだが、このロックには多少の遊びがあり、保持爪④がこの遊びの範囲で作動するように調整するとロックを解除せずにシャッター閉の操作ができるようになる。これにはロックの遊び調整と、保持爪④に連動するレバー類を調整すればよいのだが、微妙な調整になる。不用意にこれを行うとB、Tの機能そのものが損なわれる可能性が大きいため、十分注意したい。
 もう一つ、シャッターストロークは機体によって若干の差があり、深すぎるストロークは使いづらい。このような場合はシャッターボタンと、それによって押されるリリースレバー⑤との遊びが大きいためであるから、リリースレバーのコンタクト部分を曲げて上方にアップさせるか、適当なスペーサ-を貼り付ければよい。
#A18.jpg

投稿者 sekiguchi : 2007年02月25日 17:12

シャッターのチューニング(後編)

 ガバナーを注意深く組み立てた後、ボディに組み入れる。ガバナーの取り付け位置、角度によってシャッター速度が変わってしまう。ここで注意するのは、低速側(1~1/10s)から高速側(1/25s~)の制御に移るときのカムとレバーの接点①がスムーズになるようにガバナーを調整して固定する。
 まず行うのは1/200sもしくは1/150sの最高速の設定で正しく開閉されているかを確認する。1/200sならば測定により5ミリセカンドが出ているかを確かめる。これが出ていない場合、カムの山②が低すぎるかシャッタースプリング③が弱くなっている。スプリングは固定ネジ④を緩め、引き気味にして固定しなおせば強化できる。スプリングがへたっている場合は、同じようなスプリングを入手して交換する。カムの山を高くするには叩いて伸ばす方法もあるが、ハンダなどのロウ材を盛り付ける方法がある。ガストーチを使って盛り付け、ヤスリで丹念に成形することで修正ができる。
 次に1/50sから段階的に測定し、早すぎるときはカムの山をヤスリで低くする。全ての設定を正確に追い込むには、カムの山全てにロウ材を盛り付け、測定しながら研削した方がやりやすい。1/25sまでの調整が終わったら、次は低速側の調整を行う。
 設定を1sにし、調整はガバナー内のテンプの当たり具合を調整する座金⑤の位置で行う。遅すぎるときは座金を上に、早すぎるときは下に調整する。この調整は非常に微妙なものであるから、繰り返し作業が必要だ。1sの調整が終了したら1/2s、1/5sと順番に行うが、この調整もカムの山を研削することで行う。高速側の調整と同じ要領である。
 全ての調整を終えたらもう一度測定を行い、特に同一設定内でのばらつきに注意する。ばらつきが大きい場合はガバナーの組立に問題がある。
#A17.bmp

投稿者 sekiguchi : 2007年02月25日 17:11

シャッターのチューニング(前編)

 前回、ガバナーに手を出してはならないとしたが、簡易的なものでもシャッタースピード測定器があれば調整が可能になる。測定器については以前にこのコラムで紹介された方法を使い、完全な調整を行ったので簡単に紹介する。聖域への挑戦である。
 まず、設定カム①を取り外す。これはビューファインダー鏡筒に差し込まれているだけなので簡単に引き抜くことができる。このカムをよく観察すると、山部にタガネを打った痕がある。これは調整のために叩いて寸法を伸ばしているのである。寸法を縮小する場合は削ればよいが、伸長する方法としてこのような手法を採っている。この手法は左右のシャッター羽を連結する軸にも見られる。部品の機械加工精度だけに頼るのではなく、組立時に一台ずつ調整を行っていたことが想像できる。
 次にガバナーを取り外し、分解してギア類も全て洗浄液に浸し、清掃と脱脂をする。シャッターの低速側は、ガバナー内にあるガンギ車とテンプによって発生する抵抗でシャッタースプリングが戻る時間を制御している。シャッター秒時の各段階は、ガバナーの扇形ギア②の位置を変え、ガバナー抵抗から開放されるタイミングを変えることで秒時設定をしている。ここで、扇形ギア②の位置を段階的に保持するのが先ほどの設定カム①というわけだ。高速シャッターではガンギ車からテンプが離され、抵抗の解除をするのだが、ガバナー内の変速ギアの回転抵抗が残っているのでこれを利用して制御している。段階の設定は低速シャッターと同じしくみだ。機構的にギア軸受の汚れや油の高粘度化が原因でシャッターが不安定になる。
 ガバナー内のギアは高速で回転するので、僅かな狂いが不安定な動作になって現れる。組立は慎重に行わなければならない。無理な力でギアが変形すると本来の機能の回復は期待できない。機械時計を組み立てるのと同じ集中力が要求される。(つづく)
#A16.jpg

投稿者 sekiguchi : 2007年02月25日 17:09

シャッターの作動不良

 自家修理の中でもなかなか手を出せないのがレンズとシャッターであり、聖域である。しかし、撮影に直接影響するところでもあり、シャッターは故障の多い部位でもある。リアリストの場合、高速側のシャッターは作動するが、低速側が作動しない、もしくは不安定であるという例が多い。これはスローガバナー①の油脂類が酸化して固化し、ガバナーが正常に動いていないことがほとんどだ。このガバナーの組立は、ボディにセットするときに微妙な位置調整が必要なため、安易な取り外しはもちろん、ネジを緩めるのもいけない。
 簡単に対処する場合は、正面から見える軸受部②にごく少量のベンジンなどの揮発油を染み込ませ、繰り返し動かすことで固着を除去する。この方法で多くの場合は復活をするが、この後に軸受部に給油する場合は注意が必要である。軸受に使用される油脂の種類は数多く、精密機械の組立にはその機械の用途によって使い分けられている。その選定は専門家に委ねられるところであるから、このコラムではどの油が適切であるかは明言できない。もし適当な精密機器用油脂が入手でき、給油する場合であっても軸受部にはごく少量の塗布で足りる。多過ぎる給油はかえって抵抗になり、不要な部位に回りこんで作動を不安定にする。もし給油する場合は、揮発油で薄めてごく少量を差し入れる程度にしたい。
 ガバナーが動くようになったら、どの程度のシャッタースピードが出ているか確認する必要があるが、測定器がない場合は1秒の設定で作動音と時計の目視で判断する以外にない。おおよそ1秒で開閉されているのであれば、その他のシャッタースピード設定でもおおむねその通りになっていると信じるしかない。ただし、ガバナーのネジに触れていないことが前提だ。繰り返すが、ガバナーの組立は聖域だ。緩めるだけで設定が変わってしまうから、安易に手を出してはならない。
#A15.jpg

投稿者 sekiguchi : 2007年02月25日 17:08

絞りリング固着への対処

 絞りリングの固着は、摺動部の油の劣化によって起こる。状態によっては非常に回転が固いものもある。簡便な方法としては、摺動部①にベンジンなどの揮発系溶剤を少量染み込ませ、固着物を軟らかくする対処がある。しかし、気をつけねばならないのは、過度の溶剤がレンズ機構に浸透してはならない。万が一、レンズ内面に溶剤や油剤が浸透し、絞り羽に染み込むことになったら一大事である。レンズアッセンブリの分解までしなくてはならない。リアリストのレンズは小さく、分解・組立には熟練を要すし、測定器なしに組立は不可能である。特にステレオの場合、片方のレンズ特性が大幅に変わることは致命的である。レンズ内面の分解清掃を要する場合は信頼できる専門業者に委託すべきである。
 さて、このような危険な方法を取らずに清掃する場合、絞りリングのみ取り外せばよいのである。レンズボードからレンズを取り外す必要はない。レンズカバーユニット②を外したら、左右のレンズをつなぐ金属リボンを外す。次に、ネジ③を外すことで絞りリングの固定が外れるのだが、ワイヤばね④が入っているのでそのままでは抜けない。少し強めに引くとリングが外れる。その後は摺動面の清掃を行い、ごく軽くグリスアップして組み立てればよい。組立時にはリングばねの挿入にやや手間がかかるかもしれない。この作業は1041、1042モデルについて紹介しているが、1050モデル(CUSTOM)については少し注意しなければならない。上記の手順に加えて、絞りリングにあるつまみ⑤が固定ネジを兼用しているのでこれも外す必要がある。
組立には特に注意する点がある。外した時と組み立てる時の絞りの位置を同じにし、ネジ③を締めること。間違えると規定以上に絞られ、羽の破損、レンズ面への羽の接触という故障を引き起こす。どのメンテナンスでも、分解よりも組立時に神経を使うことになる。
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投稿者 sekiguchi : 2007年02月25日 17:06

左右レンズの光軸高さ調整

 スライドペアをマウントするときに、ステレオウインドウを考慮してコマの上下、左右、回転(水平)を調整しなければならない。左右の位置調整はウインドウに対しての奥行きにも影響するのでよく話題になる。上下のずれは非常に見にくいペアになるので、ペーパーマウントでは上下のマスクしろを使って修正して固定する。しかし、厄介なのがRBTマウントで、これには上下位置を調整するしくみがない。RBTマウントはマウント作業が簡単だ。ラボでのマウントサービスが終了してしまった現在では手軽にステレオ写真を楽しむための必須アイテムになりつつあるが、カメラの左右レンズの光軸が水平位置で完全に合致していることを前提にデザインされているのでマウントの自由度が少ない。
 リアリストは、機体差は多少あるにせよ左右の上下差は必ずある。レンズ取り付けの上下位置調整の機構はなく、部品の加工精度である程度の範囲に収まるように作られている。上下差は1mmに満たないためペーパーマウントを行う場合であれば何ら問題はない。これを更に厳しい精度で再調整する、もしくは何かの理由でレンズセットが大きくずれている場合は分解が必要である。前に紹介した絞りの整合と同じ手順で、レンズボードからレンズを完全に取り外す。レンズを取り外すにはあらかじめ左右を連結する金属リボン①を取り外しておいたほうが良い。それには絞りリングにある止めネジ②を左右両方とも外し、リボンを連結するスプリング③を外す。上下の調整しろをかせぐにはレンズボードを削ってレンズセットの穴を広げるわけだが、大掛かりな作業になる事は避けられない。レンズセット位置の決定には、焦点位置調整と同様にフィルムレール上の像の位置を確認して行う。このときには左右の絞りの関係も保つようにしなければならないので、組立時の作業負荷は相当大きい。この作業はメンテナンスというよりもリアリストの製造精度をさらに上げるカスタムチューンである。マウントの作業を簡単にするためにチューンをするか、あえてカメラはオリジナルのままにしておいてマウント作業でカバーするか。さあ、どっちだ。
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投稿者 sekiguchi : 2007年02月25日 17:04

左右の絞りの整合

 左右の画面で露出が異なる現象は、撮影者の意図を正確に反映していないばかりでなく、ステレオ写真としても問題である。観賞時に左右の目が補完しあうので目立たないとはいえ、長時間の観賞では疲労を生じる原因になる。露出差の原因としては、左右のシャッターに差が生じているか、レンズの絞りがずれているためである。シャッターに問題がある場合は、レンズボードを取り外して左右のシャッター羽を連結しているバーを操作し、状況を確認すればよいが、ここに問題があるケースは少ないだろう。
 左右の絞りが合っていない場合、左右のレンズ取り付けのバランスが狂っていることが原因である。これを修正するにはレンズをレンズボードから取り外すのと同じ作業をしなければならない。作業の始めに、ボディからレンズボードを取り外す。
 さて、レンズボードの裏面に固定リング①があるのでこれをカニ目レンチで回す。ボード正面の右レンズ側に位置決めピン②があるが、これが左右の絞りのバランスを決めている。今回の調整ではリングを緩めるだけでよい。まず左レンズが開放になる位置で固定し、右側レンズが絞り開放になる位置で位置決めピンを固定する。次に、右側レンズを固定するのだが、このときに位置決めピンがずれやすい。力加減が難しい作業になる。左右のどちらを回しても絞りが同じように連動し、遊びがないように調整する。ここでは絞り開放を基準として調整したが、厳密には絞り込んだときに左右のバランスが若干ずれることがある。程度としては1/3絞り以内だろうが、ラチチュードの狭いリバーサルではこれが露出差として現れる。正確を期するなら、撮影結果を見て調整し、再び撮影して確認するという手のかかる作業をしなければならない。
普通はレンズボードからレンズを外さなければならない状態になっている機体は少ない。いたずらに既に調整されているレンズセットをボードから外すと大変な調整が待っている、という意味でもあり、むやみな分解は慎むべきである。
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投稿者 sekiguchi : 2007年02月25日 17:02

フォーカス位置調整

 フォーカスを合わせたのに焦点が合っていない、左右の片方でピンぼけが起きる、といった場合は、フィルムレールが焦点面に合致していないことが原因だ。これを改善するには、ピントグラスでフィルム位置の結像を観察することから始まる。ピントグラスは、すりガラスをフィルムと同じ幅でカットして作る。これをレールに押し付け、テープで固定する。すりガラスのすり面がレール側になることを忘れないように。この状態でカメラを三脚に固定し、シャッターをタイムにして開状態にする。遠景がすりガラスに投影されるようにカメラの向きを調整し、像をルーペで観察する。レンズの絞りは開放にしておく。
 さて、フォーカスダイヤルをINF.にし、この状態で左右画面の隅々まで遠景の画像がシャープに観察されればよい。そうでない場合は、レールの位置を調整するのだが、これができるのは前に紹介した4本の調整ネジがレールについている場合である。残念ながらこのネジのない初期型のモデルでは調整は非常に困難である。
 4本の調整ネジは、オリジナル状態でも緩み防止のため樹脂で封入されている。まずはこれを溶剤で取り除かねば調整ができない。除去困難な場合はレールを外して裏側からネジを抜き、ネジ穴の清掃をしなければならないので非常に手間がかかる。ともあれ、すりガラスの像を観察し、レールの小穴からドライバーでネジを僅かに回転させ、最も像がシャープになる位置を慎重に探るのだ。
 ここで注意するのは、一見きちんと調整されているかに見えて、4点支持のためガタつきが生じている場合がある。レールを時々押さえて、ガタが生じていないことを確認しながら作業を進める。納得の行く調整ができたら、ネジ穴部にラッカー塗料を注入するなどして緩み防止の措置をしておく。紹介したのは無限遠基準の方法だが、近距離基準に調整するとステレオ向きのより正確な距離計になる。
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投稿者 sekiguchi : 2007年02月25日 17:00

フィルムレールの摺動(後編)

 フィルムレールの動きが悪い原因が、レールとボディの摺動面の異物付着、腐食による錆発生ということもある。適当な紙片を摺動面に差し込んで何回も擦ることで取れる場合もある。しかし、腐食がひどい場合などはレールを取り外し、摺動面を滑らかにしてやらなければならない。この作業はかなり手間がかかる。
 レールはその背面で2本のスプリング①でボディ側に引っ張られている。まずはこれを外すが、これだけでは外れない。スプロケットギアを固定しているイモネジ②をレンチで外す。ネジはレールにU字型の開口部があるのでここからネジを回す。U字の開口部から抜き出さず、緩めるだけでよい。次にトップカバーを開けてカマボコ型の頭部を持つ軸③を抜き、更にアーム④を外す。これには、アームに連結されている部品⑤も外さなければならない。アームを外すと真鍮製のネジ⑥が見えるのでこれも外す。これでやっとレールを外すことができる。摺動部を研磨し、すり合せを良くすれば障害は取り除けたはずであるが、この後の組立が難関である。フィルムゲートの隙間を調整したり、アームとラチェットを再びもとの関係に戻したりと手順が多い。レール裏面の2本のスプリングを元の通り掛けて完成するまではなかなか根気の要る作業になる。組立まで完了できればリアリストの巻上げ制御のひみつがよく分かるはずだ。
 組立の時に注意しなければならないのはレール位置を調整する4箇所のネジ⑦である(ただし、初期のモデルにはこのネジがない)。これを回してしまうとピントの位置がずれてしまうので注意すること。かなり手順の多い作業になるので、自信のない人は手を出さないことだ。組上げられなくなってジャンクになってしまう危険がある。

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投稿者 sekiguchi : 2007年02月25日 16:58

フィルムレールの摺動(前編)

 このコラムの初めの方で、レンジファインダーがギクシャク動く場合はフィルムレールの動きも悪くなっている可能性があることを紹介した。この原因には二つのことが考えられる。一つはフィルムレールとボディの摺動部のすり合せが良くない場合で、この場合の対処は重分解が必要である。その方法は次回に紹介するとして、もう一つの原因については簡単に対処できるので先に紹介しよう。
 裏蓋を開けてフォーカシングダイヤルを回すと、フィルムレールが動く様子を観察できる。ここで巻き戻しダイヤルを「A」にしてスプロケットギアを回転させ、ギアのロックがかかっていない状態にしてみる。フォーカシングダイヤルを回すとフィルムレールの動きが悪いはずである。これはスプロケットギアの軸に抵抗がかかっているためだ。スプロケットギアの軸はフィルムレールの軸受に乗っているのでこの現象が起きる。巻上の途中でフォーカシングの操作をしても正しく合わないことがある。
 この他でレールの動きが悪い場合は、レールの復帰ばねが弱くなっている。レールは裏側から2本の復帰ばねでボディ側に引っ張られている。これを交換するというのも手間がかかる。実はレールの復帰にはこのばねだけでなく、フィルム圧板①も作用しているのだ。まずはこの圧板をよく観察し、歪みがないか確かめる。歪んでいる場合は僅かに力を加えて矯正しておく。次に、圧板を止めているネジ②を外し、板ばねを矯正し強化する。このときに連結しているリベット部分③に力がかからないように注意する。ムリな力がかかると破損する。あまり強く矯正する必要はない。圧板が適度にフィルムレールを押し戻すようになれば問題は解決するはずである。それでも直らない、という場合は後編に続く。
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投稿者 sekiguchi : 2007年02月25日 16:36

巻上げ制御不良の事例

 コマの重なりは、正常な状態でも僅かに生じるが、大きなコマの重なり、不自然な未撮影部分の発生がある場合、フィルム送りに故障が生じている可能性がある。ただ、巻き上げを中途半端にした状態でもシャッターを切ることはできるから、人為的なミスの場合もある。しかしこれ以外の場合、かなり重大な故障の場合があるのだ。コマに異状が生じた場合、フィルムのパーフォレーション部をよく観察してほしい。パーフォレーションに傷がある、欠けているなどの異状が発見されたら一大事である。これは、スプロケットギアが固定された状態で巻き上げノブが進んでしまったことを意味する。このコラムで紹介したように、巻き上げノブはスプロケットギアでストップ制御をしているが、この制御が利かなくなっている。原因は巻き上げ軸を分解した時に見られたラチェット機構にある。
 トップカバーを開けると、スプロケットギアの軸から伸び、ラチェット機構につながるアーム①が、スプロケットの回転によって動く様子を観察できる。このアームの先端が鉤状になっており、ラチェット爪②を引いたり、開放したりする。アームが爪を開放すると、爪はスプリングの力でラチェットギアに押し付けられる。スプリング③が弱くなっているとロックがきかない。この他にロックがきかない原因はラチェットの損傷が考えられる。
 過去に巻き上げの操作で無理な力が掛かっていると、ごく僅かでもギアの損傷が生じ、これが動作に影響している場合がある。巻き上げ部のオーバーホールで紹介したレアケースがこれだ。実際の事例がCUSTOMで生じていた。後期モデルは、巻き上げノブを大きくして操作性を改善している。しかし、これがラチェット部に過大なトルクをかける原因になった。後から設計変更する場合は、当初の設計計算をよく吟味しなければならないという事例である。修理には、別の機体からギアを取り出して交換せねばならなかった。
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投稿者 sekiguchi : 2006年06月17日 02:16

枚数カウンターの修理・調整

 枚数カウンターが動かない、動きがおかしい、指標とダイヤルがずれているといった症状の場合、写りに影響がないとはいえ気分のいいものではないし、何枚撮ったかわからないという状況ではシャッターチャンスを逃す原因になりかねない。これを直すには、カウンター機構の調整が必要だ。この機構はトップカバーの裏面に全てがある。トップカバーの4本のネジを外し、カバーを持ち上げる。気をつけねばならないのは、ホットシューから伸びる黒いコードがボディとつながっているので無理に引っ張らないこと。作業を快適に進めるには、このコードをホットシュー裏面で外しておくこと。コードの端子はネジとナットで固定してあるので、ナットを外してコードを外しておく。
 カウンターダイヤルの指標がずれている場合は、ネジ①を緩めて指標とダイヤルを合わせなおし、再びネジ①を締めればよい。ただし、ネジを締めるときにダイヤルが再びずれるので、遊びしろを見ながら根気よく調整を行う。
 カウンターが動かない場合は、スプリング②が外れているか、ラチェット調整部③が緩んでラチェットが作動していない。動きがおかしい場合は、ラチェット調整部③が狂っているか、爪付き板バネ④の位置がずれている。スプリングが外れている場合は簡単だが、ラチェット調整をする場合は手間がかかる場合もある。どちらかがずれているだけならまだしも、両方がずれているときはバランスを見ながら調整しなければならない。また、ギアの僅かな偏芯で、ある部分は正常に動くがある部分では動かないという事例もある。これも丹念に調整すれば直るのであるが、高度の集中力と根気を要求される。不要な作業を避けるため、まずはラチェット調整部③のみで調整をすること。ここで直れば幸運である。爪付き板バネ④を触るのは最後の手段と考えよう。
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投稿者 sekiguchi : 2006年06月03日 20:44

遮光対策

 モルトプレーンは黒いスポンジ状の素材で、弾力があり、裏蓋との接合部分や隙間を埋めるために多用された、優れた遮光材である。少し前のカメラには必ずといってよいほど使われているが、モルトプレーンは樹脂製で、経年変化により劣化し、たいていの場合はペースト状に変質してしまう。最近のクラカメブームでもこのモルトプレーンの交換方法がよく話題になるのはこのためである。しかし、リアリストは遮光にモルトプレーンを一切使っていない。使っていないというよりは、このような樹脂材料が工業ベースで使われるには時代が早かったと見るべきだろう。リアリストの遮光は、勘合部の構造で対処しているのである。遮光材に限らず、生産された時代の背景から、劣化する素材を使用していなかった。それ故、今でも実用機として使用できるのだ。果たしてあと半世紀後、現代のカメラは実用に耐えるだろうか。
 リアリストは、製造当時のフィルムが低感度だったために顕在化しなかった現象が現れる。光線引きである。暗箱であるはずの筐体に外部からの迷光が入り、フィルムを感光させてしまう。これはなんとしても対処せねばならない。リアリストの光漏れ発見方法については他でも紹介されているので詳細は紹介しないが、初めて入手した機体や、光線引きを生じた機体には次の処方が有効である。簡単な方法なので是非トライしてほしい。
 光線漏れの場所はたいていの場合、①で示す裏蓋の接合部だ。蓋が変形して生じているのではない限りこの部分に遮光材を置く事で解決する。遮光材は先に紹介したモルトプレーン②が有効だ。修理パーツとして市販されている。厚さはあまり厚くないほうが良い。厚いものや、他の弾力に乏しい素材だと蓋のロックが極端に重くなる。接合部をカバーするように両面テープで貼り付ければ完全に遮光される。
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投稿者 sekiguchi : 2006年05月28日 14:47

ビューファインダーの修理

 ビューファインダーの汚れなどのため、ファインダーが見づらくなっているケースは多い。対物レンズの汚れは特に目立つものとなって現れる。対物レンズの前面を清掃するだけで解決する場合もあるが、内面が汚れている場合は分解清掃が必要だ。
 対物レンズを外すには、レンズカバーのベークライト台座をまず外し、レンズを押さえているリング①をカニ目レンチで外す。つかみしろが小さいので、レンチのズレによってリングやレンズに傷をつけないよう慎重に作業をすること。リングを外すと、視野枠のマスクと②、対物レンズ③を取り外すことができる。レンズクリーニングのみで驚くほど改善する場合も多い。取り付け時には、視野枠マスクがずれないよう微調整が必要だ。
 さて、ここまでは簡単なケースだが、その奥にあるミラー④が劣化してコントラストが低下している場合も多い。また、CUSTOMのようにごく後期型になるとミラー材質が変更になっており、黄色く変色している場合もある。修理にはミラーの交換が必要だ。ミラーはガラスにアルミ蒸着した表面鏡が必要だが、万華鏡専門店などで素材として入手することが可能だ。これをガラス切りで切り出し、交換すればよい。と、言うのは簡単だがこれが結構大変な作業になる。自信のない人は手を出さず、ミラーもブロワ-で吹くぐらいに留めた方が良い。ミラーをペーパーで拭いたりするとかえって傷がつくことがある。
 ミラーを交換する場合、オリジナルのミラーは接着されており、破砕して丹念に清掃するしか方法はない。交換用ミラーは接着剤等で貼り付けることになるが、切り出したミラーの寸法が悪いとうまくセットできない。また、表面鏡は傷がつきやすいので作業は慎重を要する。ミラーは接眼レンズ側にもう一枚⑤あるので、これは底蓋を開けて交換する。難しい作業だが、これでビューファインダーは見違えるほど見やすくなる。
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投稿者 sekiguchi : 2006年05月27日 08:23

シンクロ調整

 リアリストは外部補助光源として閃光電球を使用することを前提に作られているから、ホットシューの接点はシャッターが全開する数ミリセカンド前に接触するように調整されている。それは、閃光電球は電流が流れてフィラメントが燃焼しはじめ、最大光量に達するまでに数ミリセカンドのタイムラグがあるからである。低速シャッターで全開している時間が比較的長い場合はこのような遅れ調整がなくても良い。しかし最高速でもシンクロするためには、シャッターが全開する僅か前に閃光電球のトリガーをする必要がある。
 一方、ストロボはトリガーの瞬間に発光し、閃光電球に比べればタイムラグはほとんど無いといってよい。だから、ストロボを使うとシャッターが全開する前に発光してしまう。実はこのタイミングは、シャッターが8~9割開いた時点であるし、シャッターの機構を考慮すると実用上は影響を無視しても良い。しかし、絞り開放で高速側シャッターを使い、かつストロボの光量をフルに使いたいなどの特別な場合はこの調整が有効になる。
 調整方法は至って簡単。レンズボードのネジ4本を外し、これを開けるとシャッター機構が丸見えになる。左右のシャッター羽は連結棒①でつながれている。これを向かって右方向にスライドさせると、左右のシャッターが同時に開くのがわかる。連結棒の右端にシンクロ接点があり、コードでつながれた銅合金の電気接点②と接触するしくみになっている。オリジナルの状態だと、シャッターが全開する前に接触する。調整は②の合金板に力を加えて曲がりの状態を変える。合金板を取り外す必要はない。連結棒をスライドさせながらシャッターの開き具合と見比べ、接触位置の調整をする。
 ちなみに、シンクロしないなどの不良の場合はコードの断線、合金板とボディとの絶縁不良、ホットシュー部分とストロボ側接点の接続不良が考えられる。

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投稿者 sekiguchi : 2006年05月14日 11:29

巻き上げ部のオーバーホール

 機体によっては巻上げが極端に重い場合がある。原因は二つ考えられ、その一つはフィルム圧板がフィルムレールに過度の力を加えている場合だ。フィルムレールがトンネル式ではないため、圧板の力がダイレクトにフィルムにかかってしまう。しかし、このケースでは巻き上げ操作が深刻な状況になることはない。フィルムを装てんしない状態で巻き上げノブが重い場合が今回のメンテナンスケースである。
 原因は巻き上げ軸系のグリスが固着していることにある。ノブを止めるネジ①を外し、ギアの清掃とグリスアップ、軸部への潤滑油給油で回復する場合もあるが、分解することにより完全なメンテナンスができる。ただし、ここで紹介するのは後期型の巻き上げ機構に限っているので注意いただきたい。
 軸部の分解は巻き上げスプール②にあるイモネジ③を外す。ネジの頭は四角になっているので、専用のレンチがない場合はドライバーを自前で削った特製の工具を用意する。このイモネジを外すとギア付きの軸④が上部に抜ける。スプールとラチェットギア⑤も外れる。ギアの組立は多少のコツがいる。組立に自信のない人は分解を諦めたまえ。
 さて、軸を外したら清掃し、傷や錆浮きがあれば研磨をする。ボディ側の軸受部の清掃も同様。スプール軸内部にはフィルム端保持用の銅板が入っている。これが変形していると軸とスプールの平行が悪くなるので矯正しておく。組立時に軸受部にグリスアップし、丁寧に組上げれば驚くほどスムーズに回転し、巻き上げは格段に軽くなる。
 分解のついでにラチェットギアとラチェット爪⑥の点検もしておこう。ギアの欠け、磨耗、ラチェット爪の磨耗は巻上げ不良の原因になる。残念ながら部品交換なしで回復はできないが、ギアは工具鋼で作られているので磨耗が生じるのはレアケースである。

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 後期型は紹介したようにラチェットギアで巻き上げ軸のロックをしているが、前期型はスプリング締め付けでロックするユニークな機構になっている。前期型、後期型の見分け方は、スプールの上をよく見ればギアかスプリングが観察できるのでこれで判別する。前期型も同様の手順で分解はできるが、組立は数段難しい。

投稿者 sekiguchi : 2006年05月13日 15:10 | コメント (2)

レンジファインダーの調整(後編)

 無事に革を剥がすことができたらおめでとう。底蓋のプレートは5本の小ネジで止めてあるのでこれを外す。底蓋には内側の要所に植毛紙が貼ってある。リアリストには隠れた細かい配慮がされているのだ。内部はミラーの組み合わせで光路が構築されている。レンジファインダーは、右側のミラー①が可動になっていて、フィルムレールからのピン②の回転がこれを動かしている。フォーカスダイヤルを無限遠に設定したときの可動ミラー①の位置を調整するのが今回のメンテナンスの手法だ。
 フォーカスダイヤルをINF.にし、レンジファインダーで遠方の景色を覗き、調整ネジ③を少しずつ回す。前回紹介のプラグが外せればマイナスドライバーが使いやすい。プラグが外せなければネジの頭をラジオペンチで回す。像が合致したら、ネジの回り止めに接着剤や塗料で固定する。瞬間接着剤などの強力なものを使うと再調整をするときに困るから、黒ラッカーを使うのがいい。振動で回らなければいいのだから。
 ちなみに、合致像の上下加減はスプリッターミラー④を調整する。これは小さな二つのミラーで構成されていて、それぞれが板バネ形式のアームに乗っている。それぞれ、板バネを止める二本のネジで調整することになるが、実はこのネジだけでは調整の自由度が足りない。こいつに手を出すと調整にえらく苦労することをあらかじめお伝えしておく。
 調整を終えたら底蓋を閉じ、革を貼りなおす。ゴム系の接着剤を使うよう書かれた本もあるが、リアリストは合成樹脂のグッタペルカではなく山羊革なので接着剤だと後で剥がしにくい。両面テープのほうが作業がやりやすい。紙用の薄手のもので十分な接着強度が出るし、きれいに貼れる。貼りなおしもやりやすい。もし革を破いたりした場合は裏から目の粗い布を当て、ビニル系の接着剤で接着補修すると良い。では諸君の健闘を祈る。

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投稿者 sekiguchi : 2005年11月13日 12:38

レンジファインダーの調整(前編)

 レンジファインダーでフォーカスを合わせても、フィルム上で正しく結像しなければ撮影者の意図を反映できないことになる。メンテナンスではフィルム面位置の像を確認しながら、近距離も含めたフォーカス範囲で実用的な調整をする。つまり、ステレオゆえに2~3メートル先の被写体を主に撮るなら、その距離でレンジファインダーが正確になるように調整しておくのが正しい。実は、リアリストでは近距離で調整をすると無限遠ではレンジファインダーの像が僅かだが合致しない。これは、このカメラの設計上の許容誤差である。よく、レンジファインダーの精度を議論する上で基線長の長さを引き合いに出し、長いほうが高精度と結論付けるケースがあるがこれは誤りである。許容誤差がどのように設計上考慮されているのかを検証に入れなければ比較は無意味である。
 さて、近距離用の調整は余計に手間がかかるし、フォーカスダイヤルがINF.でレンジファインダー内の遠方像がずれるのも精神的に良くない。実用上は無限遠で調整しても大きな支障はないので、比較的簡単な無限遠起点の調整方法を紹介しよう。簡単なのは裏蓋をあけ、下部にあるプラグ①を外して内部の調整ネジを回す。しかし後期型はプラグを外すのに特殊工具が必要だ。前後期のいずれにせよ調整後のネジは振動でずれやすいので、ネジの回り止めを施工するためにも底蓋をあけて調整する方法がベストだ。レンジファインダーのひみつは、カメラの底部にかくされている。底蓋を開けてそのひみつを知り、調整をしてみようではないか。
 底蓋を開けるには革を剥がし、その下に隠れているネジを外さねばならない。革はヤギの本革だ。慎重に、破かないように作業をする。コツとしては、端のほうからナイフを入れて、接着剤を少しずつ切るようにする。決して強く引っ張らないこと。このオペはここだけ勇気が必要。断念するなら今のうちだ。やってみようという人は後編を待ちたまえ。

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投稿者 sekiguchi : 2005年11月06日 13:25

分解室にようこそ

 さて、ここからはリアリストを本格的に分解しちゃいます。ただバラバラにするのではなく、自分でメンテナンスをするにはどうしたらいいのか、というひみつを探ります。リアリストのひみつの核心に触れることができるかもしれません。市販の工具などで対応できるレベルで、工夫を凝らしたデータをもとに紹介します。メンテナンスにチャレンジしたい人は参考にしてください。では、ここからはイエロー・ジャック先生が担当します。でも、モグリの医者の言うことだから実践するときはよく考えてからやってね。よく言われることですが「自家修理・改造は自己責任で」とここでも言っておきましょう(笑

投稿者 sekiguchi : 2005年11月06日 13:21

シャッタースピードのひみつを探る

 リアリストフォーマットはカメラやマウントなどの入手性が良いので立体写真にエントリーするには便利なシステムだ。しかし、問題なのは過去に作られたカメラで撮影するしか方法がなく、シャッターの信頼性に多少の不安があることだろう。クラシックを楽しむと割り切ってしまうだけではちょっと寂しい。まだ動くとはいえ相当昔のカメラである。シャッターの精度はどの程度なんだろう?測定器があれば確認できるが、こんなものは秋葉原に行っても売っていない。んじゃ、しょうがないな。工夫してみっか。
 シャッターの開口時間を計る方法に限定すれば測定器の回路設計など要らぬ。乾電池とcdsセルをつなぎ、これをパソコンのマイク入力に投入する(でもテキトウにやっているからパソコンが壊れないか心配)。cdsで明るさの変化を電流の変化に変換し、音声信号として取り込むのだ。音声解析ソフトで変化をグラフに表示し、グラフからシャッター開口時間を割り出す。サンプリング周波数が高いからそれなりの測定精度は出るはずだ。
 リアリスト数台を計測したところ、最大で半段ほど露出オーバーになる傾向が出た。やはりバネのへたりか。特に最高速側が落ちている。しかし、同じスピード内での繰り返しでは、ばらつきが小さいこともわかった。カメラの基本性能は現代の高性能フィルムにも十分対応できるはずだが、やはり年月によるコンディション低下は免れないのか。中古販売店でシャッターまで正確に調整したものは少ないだろう。繰り返し撮影し、自分のカメラがどの程度露出計と差を出してしまうのか知ることしか対処方法はない。
 でも、せっかく測定ができるようになったのだ。何とかならぬか。というわけでガバナーの分解、スプリング交換、カム調整というかなり大掛かりな調整をし、苦労の末、信頼性抜群のリアリストが誕生した。苦労の顛末はいずれご紹介しよう。

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投稿者 sekiguchi : 2005年08月27日 18:12

レンズカバーの修理

 以前に、レンズカバーが取れるとださくなっちゃう話をしたが、ちょっとした拍子に取れちゃうことがある。落としてカバーが割れてしまったものはどうしようもないが、壊れていなければ元のとおりに戻してあげたい。さて、どうやって取り付けるのか?という話。
 レンズカバー本体と、カメラ側のベースを止めているのは二つの板バネだ。くるりとカールして、横から見ると「C」字型をしている。これがベークライトの溝にはまって、カバーの開閉を支えている。バネはヒンジとも呼ばれる。このバネがちょっと弱くなっていると外れやすいのだが、一度外れてしまうとどうやっても外からでは取り付けられない。直すにはまずカバーを開けて現れる4本のビスを外し、ベークライトの台座をユニットごと取り外す。外したら、カバーをそっと閉じ、台座と合わせる。その時、台座部分にはベークライトが細くなっている部分がある。ここは割れやすいので壊さないように細心の注意を払ってほしい。さて、外れたバネは裏側から押し入れると、パチン☆とはまるはずだ。おっと、その前に。弱くなっているバネは、事前にペンチでごく少し「C」字を上下につぶして強化しておく。つぶしすぎるとバネが入らなかったり、ベークライトに負担がかかりすぎるので注意。何よりもベークライトの溝を壊さないように。入ったバネを無理に外そうとするときにも欠けやすい。欠けたら一大事だ。
 欠けたり割れたりした場合、奥の手だが接着の方法もある。瞬間接着剤(シアノアクリレート系)はベークライトと相性がいい。状況によるが、運がよければ直る。もしバネが壊れたり、なくしたら・・・これもあきらめるのは早い。海外の特定のショップで手に入れることもできるが、僕は新しく作ったことがある。携帯電話のストラップにクリップつきのがあるが、クリップの板バネをヤスリで削り、ペンチで成型してオリジナルと同じものを作ったのだ。チャレンジする人へ。・・・健闘を祈る

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投稿者 sekiguchi : 2005年02月19日 21:51

吊り金具の治療

 リアリストを使い込んでゆくと真っ先に壊れるのがストラップの吊金具だ。カメラ本体に左右に付いていて、ネジで止めてあるやつね。これは板金用のアルミ板を打抜いて作られているから軟らかい。ストラップを通すリングの方が硬い材質で作られているから、どうしても軟らかい方が負けてしまう。特に、左側の金具の方が薄い板で作られているからやられやすい。重いリアリストを支え、あなたの首に下げられてブラブラしているうち、ゴリゴリやられて削れてしまう。使い込まれたものほど金具の端がめくれ上がっていて痛々しい。これを放っていれば、ついには金具が切れてカメラが落下、硬いコンクリートに叩き付けられてバラバラのパー。あーこわい。
 こんなことになる前に、直してあげましょう。金具を全部作り直す手もあるけど、これはめんどくさいし、上手に作るのが難しい。補強金具で対処しましょう。まず、めくれ上がった金具部分はヤスリで削って滑らかにしておきます。次にDIY店でボールチェーン用の端金具を購入しましょう。ちょうどいい幅のものを選んで。ステンレス製もあり、1個20円ぐらい。ニッパーで両端を切り離し、真中の部分だけ使います。切り口はヤスリで滑らかに。カメラ金具のカーブと同じになるように形を整え、金具にかぶせます(かぶせるというより、横から差し入れる感じ)。エポキシ系の2液接着剤で固定すれば出来上がり。施工後は損傷が進行しませんし、接着剤が剥がれにくい工法ですからカメラ落下の危険がぐっと減ります。カメラ側の金具がひどく損傷していても補修が可能ですからぜひお試しください。
 これってなんだか、虫歯の治療で銀のクラウンをかぶせるみたいだな。

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投稿者 sekiguchi : 2005年01月22日 00:11