STEREO CLUB TOKYO

不死身のスタデラ・EX

 ついこの前直したスタジオデラックスを壊してしまった。自転車の前カゴにカバンごと入れておいたのだが、勢い良く段差を乗り越えたのがいけなかった。カバンの口が開いていたのもいけない。ステレオリアリストとスタジオデラックスが宙を舞い、地面に叩きつけられた。普通ならここでバラバラになってオシマイである。
 幸いにも、前日の雨で湿った土の上だったのでステレオリアリストは当たり所も良く、無傷だった。スタジオデラックスは無傷とはいかなかったが、先に直したときの接着部分が剥離しただけで済んだ。他にはどこにも損傷がなかったというのは奇跡とも言えよう。ほんとにもう、焦ったでござるよ。カバンの口は閉めようね。
 おや?スタジオデラックスの部品を繋ぐ高ナットの一つが見当たらない。これはベークライトの部品に成形埋め込みで取り付けられているのだが・・・以前ここが壊れたので、接着剤で補修しておいたのだ。今回のことで接着剤のところが剥がれ、ネジもどこかに飛んでいってしまったらしい。地面をくまなく捜索したが見つからなかった。
 見つからなければ作ればいいや。そう気持を切り替え、早速修理に取り組む。適当な金属パイプにナットをハンダ付けする。ヤスリで形を整え、寸法も調整すると代用部品の出来上がり。エポキシ接着剤を使ってもとの部分に取り付ける。接着剤が固まるまでの間、気になっていた本体ダイヤルの掃除もしてみよう。
 そう思って分解したのがいけなかった。はじめて分解したのだが、組立に手間がかかった。感度ダイヤルはクリックストップになっているのだが、ここに使われている小さなスチールボールを紛失してしまったのだ。後日、東急ハンズで直径1mmのスチールボールを購入して事なきを得たが・・・ほんとにもう、焦ったでござるよ。


オリジナル(左)と自作(中)の高ナット。右は自作に使ったナット。


例によってバラバラでござんす。

投稿者 J_Sekiguchi : 2013年06月06日 10:00

不死身のスタデラ

 ステレオリアリストの無二の友、スタジオデラックスが壊れてしまった。カバンの中に入れておいたら、受光部の丸いドームが無くなっている。丸いドームは外れるので、ここだけが取れたのなら問題ないのだが。なんと、カバンから取り出したらヘッドの形が変わってしまっている。部品がバラバラ。これは困った。どうしよう。
 カバンの中から外れた部品を拾い出す。カバンの中だから良かったようなものの、部品を紛失したら元には戻らない。よく見ると、受光部の丸いドームとスライド板を挟むプラスチック部品が、本体に取り付けるナット部品ごと取れてしまっている。このナット部品は金属製で、プラスチックを成形するときに金型にセットして埋め込み成形されている。パイプのように高さがあるので応力に堪えきれず、埋め込みから外れてしまうのだ。
 まあ、こんなものはエポキシ系の接着剤を使えば大丈夫。そう思って部品を見ると、既に接着剤で取り付けた跡がある。ああ、思い出した。以前にもここが壊れ、自分でエポキシ接着剤を使って直したのだった。
 もう一度同じ方法で修理してもいいのだろうか。同じ方法ではまた壊れるかもしれない。接着剤は接合する素材や、接合するときの条件で強度や耐久性が変わってしまうので扱いにくいところがある。それでも、他に方法がないので今回もエポキシ系接着剤で取り付けることにする。今度はもっといい結果になるようにしよう。
接合する部分を徹底的にクリーニングすることにした。ナット部品は真鍮だから紙やすりで参加した表面を落とす。プラスチック部品は実体顕微鏡で観察すると、前の接着剤が接していた部分は変質している。ここを丁寧にそぎ落とす。以前より接着剤を肉盛にし、その分、組立で干渉する相手部品を削る。これで大丈夫なはず。


壊れちゃった・・・

投稿者 J_Sekiguchi : 2013年05月30日 10:00 | コメント (2)

水素増感

 カメラの保管庫で「減圧してはいけない」ということを書いた。これがフィルムになるとまた別の現象が起きるので紹介しよう。写真フィルムを真空下に置いておくと、感度が上昇する。どうやら真空下に放置することで僅かに含まれる水分が放出し、感度上昇に働くらしいのだ。詳しい仕組みは解明されていないとも聞く。
 この現象は天体写真を撮影する時、フィルム感度を上昇させる方法の中で紹介されていた。感度を劇的に上昇させる方法として、更にフィルムを水素ガスに暴露させる方法がある。原理は水素ガスがハロゲン銀に作用し、潜像を作る前の励起状態に活性化させるというもの。この方法はアマチュアを巻き込んで工夫がなされた。
 この手法は主にモノクロフィルムで活用され、超微粒子にも関わらず高感度が得られるということで脚光を浴びた手法なのだ。暗黒の宇宙空間に仄かに輝くガス星雲を捉える、伝家の宝刀だった。
 僕も昔、フィルムを真空に引く装置を自作したりもしたが、今ではそんな人も少ないだろう。今僕がこの方法が活用できるのではないか、と企んでいるのが、ローライスライドダイレクト(RSD)の感度上昇作戦である。
 通常の現像処理でモノクロポジが得られるRSDは魅力的なフィルムである。既にRSDは入手しているのだが、テクニカルデータが乏しい。かなり感度が低く、普通のフィルムとは撮影の勝手が全く異なる。
 感度が低くて使いづらいならば、水素増感をして使いやすい領域まで引き上げたらどうか。もちろん、フィルムの特性もあるから失敗に終わるかも知れない。こんなことを考えながら、めんどくせえ手法の考案を面白がっているのだ。こんな化学実験みたいなこと、フィルムならではの遊びである。そう、フィルムは遊びが満載である。

投稿者 J_Sekiguchi : 2013年04月25日 10:00

増えたね・増えるね

 いったい今まで、何組のステレオスライドを作ってきたのだろう。そう思って、棚にしまってあるスライドを収納している小箱の数を数えてみる。ざっと数えて200箱。小箱一箱には40枚が入るようにしてあるから、全部で8千枚になる。棚に収めていないものもあるからこれ以上ある、ということがわかった。フィルムで約280本分。
 なんとまあ、よくもこれだけ撮ったものだ。でも、約10年で、ということだから年に28本、毎月2本程度のフィルムを使ってきたということだから、そんなに驚く数字でもないか。ほかの人なら、もっと撮っているかも。
 これだけあると観賞するのも面倒になりがちだ。分類をちゃんとしておくのが大事になる。箱に貼ったラベルで中に何が入っているのかわかるようにしておかないと。それなのに僕は、1/3程度、ラベル貼りをサボっている。そろそろまずいかな~と焦っている。どこかでちゃんとしておかないと、いつ撮ったかさえ忘れてしまう。
 もしも、デジタル化されたビューマスターみたいなものが登場したら、このたくさんのスライドから画像データを取り込んで楽しんでみたい。覗きながら、ボタン一つで画面が変る、そんなビューマスター・デジタルが早く登場しないかな、と待ちわびている。通勤電車に乗りながら、ステレオ写真を鑑賞する。そんな日が早く来ないか。
 そろそろデジタルにしなさいよ、と言われそうである。もうステレオ・デジタルカメラが登場したよ、と。わかってはいるが・・・僕ままだSLに乗っていて、早く新しい電車に乗り換えなさいよと言われているようなものである。
 僕は今のところ、通勤電車のように下車する目的地があるわけじゃない。まだまだSLでいい。ゆっくりと、これからもスライドを増やしてゆく。デジタルに乗り換えたら、管理できなくなるほど写真が増えてしまいそうだしね。

投稿者 J_Sekiguchi : 2013年04月18日 10:00 | コメント (2)

COMBI-METER

 目測での距離あわせが嫌いな僕は、ベルプラスカに距離計が付いていないことが不満だった。それでも、数少ないヨーロピアンフォーマットのステレオカメラだ。リアリストの次に手に入れた。また、初めてebayで買ったカメラでもある。因みに、安く買えたのはいいがファインダーが曇っていて、分解掃除も苦労してやった。
 ファインダーがきれいになると、いい写真が撮れるような気がしてくる。だけど、目測でフォーカスを合わすところでブレーキがかかる。勘に頼らなければならない部分が、機械としての不完全さを感じてしまうのだ。
 そんなわけで、距離計を探しに中古カメラ店巡りをした。僕が見つけたのはドイツ製のコンビメーターと表記されたもの。レンジファインダーの隣に、もう一つ大きな覗き窓がある。覗いても真っ暗で何も見えない。レンジファインダーの距離ダイヤルのほかに、上面にもう一つダイヤルがある。ダイヤルを回しても何かが変る様でもない。
 不思議そうにしていると、お店の人が教えてくれた。これは光学式の露出計です、と。大きな覗き窓は、ちょっと離れて見ると中に数字が見える。3から7までの数字があって、数字が小さいほど暗く見える。見えた数字を上面のダイヤルにセットすると、シャッターと絞りの組み合わせがわかるというもの。こんなものがあるのか、と驚いた。
 人間の目は優れた順応能力があるので、明るいところでも暗いところでも目の感度が調節されて、ちょうど良い明るさに感じるようになっている。だから、ダイヤルには晴天の屋外、曇天の屋外、部屋の中というイラストがあって、目の順応を考慮したものになっているのだ。これはいい。シャッター速度も国際系列になっているし、便利かも。そう思ったが、やっぱり精度に問題がある。それでもいいじゃないか。ベルプラスカといつも一緒にしている。


投稿者 J_Sekiguchi : 2013年04月11日 10:00 | コメント (2)

ステレオアダプター

 今はもうブランド名だけになったペンタックスが、旭光学工業だった頃。この会社は面白いものを作っていた。レンズの先端に取り付けて、90°横を撮影するアダプターがあった。中にミラーが仕込んであって、横の窓から撮影するというもの。カメラの正面にはダミーのレンズを取り付けてある。スパイ撮影アダプターなんて呼ぶ人もいた。どこかの国のB級映画で、スパイに使わせているシーンもあったように思う。
 今なら発売することも、それを使うことも怪しいシロモノ。まあ、普通に考えて常用する場面なんてないんじゃないかと思う。同じようにミラーで構成されたオモシロ製品にステレオアダプターがある。
 僕がリアリストを手にする前、このステレオアダプターを購入した。ミラーだけの光学系だから安価だったと記憶している。専用のスライドビュアーも発売されていたが、ネガで撮ってプリントし、裸眼立体視すればいいと考えていたからビュアーは買わなかった。ちょうど裸眼立体視が流行っていた頃だから、これでイイと思ったのだ。
 初めの頃は立体に見えることに喜んでいたのだが。裸眼立体視のできない人は全くの無反応。それに、画面を左右に分割し、分割位置に黒い帯ができる関係で縦長の画面にならざるを得ない。レンズの絞りもF8前後にしなければならないとか制約が多く、使いづらいものだった。そんなわけで、あまり使わないまま現在に至る。
 最近になって工夫次第でオモシロイ使い方ができるんじゃないか、なんて考えている。当時のスライドビュアーを探してくるもよし、デジタルカメラに取り付けるのもよし。ポジフィルムで鑑賞するのが一番良いのはわかっているが、プリント&トリミングを活用して楽しむのもいいかもしれないと思い始めている。さて、どうするか。

投稿者 J_Sekiguchi : 2013年04月04日 10:00

カメラの箱詰

 生まれてこの方、大小取り混ぜて9回の引越をしてきた。その経験もあって、荷物を段ボール箱に梱包するのは結構得意な方だ。箱の中の空間に、無駄な空間ができないように荷物を詰める。パズルのような感覚で楽しみながらやることにしているのだが、数が多いとさすがに疲れる。その引越も、とうとう10回目を迎えることになった時の話。
 ステレオカメラのコレクションをしているわけではないのに、引越のたび、カメラを詰めた箱が増えている。一つずつ丁寧に梱包しながら、コイツはもうちょっと使ってあげればよかった、などと感慨に耽るのでつい手が止まってしまう。
 カメラというのは道具だから、飾っておいても意味がない。そんな風に僕は思っているので、長く使わないカメラがあるとかわいそうに思ってしまう。棚の後ろのほうに置いて忘れかけていた奴が「ここにいましたよ」と出てくる。どれも個性のある奴等。要らない奴なんて一つも無い。引越を機会に処分をするなんてかわいそうなことはできない。
 手塚治虫先生の漫画「どろろ」に、土中に埋められた小判が妖怪の姿になって現れる、というくだりがある。醜く恐ろしい、金小僧という姿になって現れるというもの。掘り出してまた、世の中で使って欲しいということで現れるのだ。
 カメラを棚の奥のほうにしまい忘れたことに気がついたとき、僕は決まってこの金小僧のくだりを思い出す。きっと、コイツだって使って欲しいと思っているに違いないのだ。忘れていてごめんね、と心の中でつぶやく。同時に、恐ろしい妖怪の姿で現れなくて良かったと思う。もし妖怪の姿になったら、カメラ小僧と呼ばれるのだろうか。ん?
 さて、引越と同時に日常の風景が変る。新しい風景から、新しい被写体が生まれる。しまい忘れていたカメラを整備して、新しい風景を撮ろう。11回目の引越まで、果たしてどんな作品ができあがるだろう。

投稿者 J_Sekiguchi : 2012年10月04日 10:00

小さなステレオ世界の探検

 ドラえもんの道具で、トンネルをくぐると体が小っちゃくなるのあったよナぁ。そんな道具があったら、普段の風景が大きくなって非日常の世界になる。東京ディズニーランドのコンセプトは非日常の提供にあると聞いたことがあるから、この道具があれば普段のリビングがディズニーランドに変わるのではないか。未知の世界を探検できる機械。
 そんな道具が本当に登場するかは怪しいが、見るだけなら虫眼鏡でもそれなりの非日常が体験できる。虫眼鏡一つで身近にあるものを観察するとおもしろい。これが立体視なら、もっとおもしろい世界として感じられるだろう。それを実現してくれるのが実体顕微鏡である。英語ではステレオ顕微鏡とか双眼顕微鏡という感じで呼ばれている。
 これを使って鉱物結晶を観察すると、拡大された像が立体に見えてとても面白い。でも、この顕微鏡は買うと高いのだ。ホビー用なら1万円台からあるが、ちょっと仕様が上がると諭吉さんがたくさん必要。
 海外にはいいのがあるかな。でも、こういうのは日本製に限るのだよナぁ。ためしにebayでstereo microscopeを検索すると、自分の考えは間違っていることを思い知らされた。安くて品揃い豊富。さまざまな仕様の顕微鏡がどんどん出てくる。さらに円高だから、ここでは毎日円高還元セールをやっているようなものだ。
 ebeyは個人が中古品を出品していると思っている人も多いだろう。だが、ebayを利用して新品を売っている業者も多い。数多くの出品から、ターレット対物レンズ付きで、透過光照明と上方照明の両方ができるモデルを選択した。本体が諭吉さん1人、送料が樋口さん1人というところ。なんと支払から4日後には品物が到着した。
 届いた顕微鏡の見え味はバツグン。そういうわけで僕の机の上では、いつでも鉱物の夢の世界が現れる。

実体顕微鏡.png

投稿者 J_Sekiguchi : 2012年09月20日 10:00

姿なき撮影者

 機械とエレクトロニクスが出会い、メカトロニクスという言葉が生まれた。だが、今やそんな言葉は死語になっている。今の世の中の機械で、電気的な制御がされていないものの方が珍しい。カメラもしかり。
 およそ10年前、まだデジタルカメラに今のような勢いがないころの話。アフリカ皆既日食を撮影するため、急きょ中古で購入したのがキヤノンのEOS 10QDだった。このカメラを購入した理由はただ一つ。セットしておけば多重露光とインターバル撮影が自動でできるからだった。当時にしてみれば電子ロボットと呼ぶにふさわしいモノ。
 日食の途中経過を、5分おきに同一のコマ内に多重露光する。既に持っているカメラでも多重露光はできる。フィルム送りを止めて、5分おきに自分でシャッターを切ればいい。だが、正確な時刻に操作するのは大変なのだ。こんな面倒な操作を、10QDは自動でやってくれる。たった一コマを撮影する、それだけのために購入したカメラ。
 実際10QDは素晴らしい働きをした。三脚に据え、設定を確認して定刻通りにスタート。あとは放置。現地のヒトもビックリ。オゥ・・・オゥトマチックキャメラ・・・。興味深げに近づくのでハラハラした。撮影中だよぅ。
 多重露光モードになっているので、シャッターを切った後に巻き上げ音がしない。だからうっかりその存在を忘れかけることも。多重撮りは10QDに任せて、僕はリアリストでステレオ撮影に専念。ホント、集中できた。
 10QDのおかげでいい一コマが撮れた。ただ、惜しかったのはレンズの性能。キヤノンレンズは持っていなかったので、セットの望遠ズームを購入した。これがいけなかった。レンズ内で乱反射した光がゴーストとなって現れたのだ。幸い、トリミングで処理できる程度だったのが不幸中の幸い。以来、僕にズームレンズは禁忌となった。

アフリカ日食連続写真.jpg EOS10Q.jpg
金環日食では出番が・・・ない予定デス。。。

投稿者 J_Sekiguchi : 2012年05月17日 10:00

減圧禁止

 日本というのは、とにかく湿度が高い。そう感じるのは夏の欧州から帰ってきたときだ。あちらの国では、少々暑いと感じる日でもスーツの上着を着たままでいられる。だが、日本で同じことをやったら死んでしまう。日本の夏にビジネススーツの上着というのは、完全にミスマッチである。湿度が高いと体感温度まで上がる。
 そう文句を言いながらも、夏場の公式の場では長袖のウールを我慢して着る。湿度の高さを実感する。こういう高温多湿の環境にある我が国は、レンズにカビが生えやすいに違いない。
 そう思っていたら、日本よりずっと湿度が低いであろう米国のヒトからカメラを購入したときのこと。その人はたくさんのカメラコレクションをしていて、地下室の倉庫に置いているのだという。だが、地下室は環境が良くない。カビが生えまくって困っている、というメールが届いた。米国でもカビは王道楽土を建国しているのだ。
 レンズのカビと湿度がどの程度関与しているかは疑問であるが、湿度を一定にする保管庫というのがある(まるで高級葉巻のような扱いだな)。そういうのが一つあるといいのかな、なんてカタログをめくったことがある。
 その中に、庫内を減圧するというものがあった。そのときはすごいものがあるなぁ、ぐらいの気持ちで受け止めたのだが、後でよく考えるとまずいのではないか。潤滑油を使って組んだ機械を保管するには不適切では?
 浸透性の良くない液体を隙間に充填する方法に、この減圧を使うやり方があるのだ。むやみに使うと、潤滑油が浸透して欲しくない部位にまで浸入してしまう。僕はそう危惧している。もしも、フォーカスダイヤルの潤滑油が絞り羽にまで回り込んだりしたら。老婆心に過ぎるというのならばいいのだが。

減圧含浸.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2012年03月29日 11:12

K2をもらって来た男

 僕の手元に、旭光学のK2がある。結構気に入っている一台だ。システムカメラではないけど、がっしりとした安心感がある。持ってみると大きさと重さから、昔のカメラだよなぁという感じが伝わってくる。オモシロイ。
 このカメラも中古品である。どこのどなたが使っていらっしゃったのか。でもまあ、大切にされていたのだろう。ケースに入れたまンま、醗酵が進んでいた。レンズもボディもカビだらけだったのだ。酸っぱくなったキムチのレベルを超え、梅雨時の放置食パンのような姿であった。これはすでに腐敗だろう。
 そんな境遇のコイツはなじみのカメラ屋からタダでもらって来たもの。別に買い物をするわけでもなく、店の前を通った際に挨拶をすると、まあ寄っていきなさいという。長話になるのも嫌だなあ、と思いきや、タダでカメラを持って行けと。ストロボも付いているよ、というのだ。そんなうまい話があるものか、と思えばこの始末。
 なんでも、下取りで引き取ったが、ここまで汚いと扱いようがないというのである。捨てちゃおうとしていたら、たまたま僕が通りかかったというわけ。この店の売り上げに全く貢献していないので遠慮していたが、そう言わずにどうぞ、どうぞ、ということでもらった。そのお店もだいぶ前になくなってしまって寂しい限りであるが・・・。
 そんな哀愁漂う一台なのだが、カビが蔓延しているだけで本体は健全そうであった。そこで、以前紹介したカビ取りの秘技を使い、レンズもミラーも復活した。モルトプレーンも取り換え、使える一台になった。
 これにペンタックスのステレオアダプターを取り付けて撮影をしている。専用のビュアーがないので稼働率がとても低いのだが。因みに、いっしょにもらったストロボは、自作マクロステレオカメラに最適の仕様だった。

ペンタックスK2.jpg
カビの王道楽土は壊滅し、美しいsmcコーティングの輝きがよみがえったのであった。めでたし。

投稿者 J_Sekiguchi : 2012年03月22日 10:00

洋行帰りのカメラたち

 子供の頃から身近にカメラがあった。フィルムを入れることはなかったが、いつもおもちゃにして遊んでいたカメラがある。PAX Rubyというカメラ。小さいがずしりと重く、しっかりした作りのカメラだ。だが、おもちゃ箱の中にレンズキャップも付けずに放り込んでいた。レンズの前玉は傷だらけ。なんともかわいそうなカメラ。なんとひどい僕。
 その他のたくさんのおもちゃはいつの間にかいなくなったのだけど、このカメラだけは手元に残っていた。ちょっと絞り環の動きが良くないのだけど、機械はしっかりと動いている。あるとき、レンズの傷を承知でフィルムを入れた。
 撮影したのは、僕がもう、一人で稼げるようになった頃の日常の風景。プリントすると、そこには傷の効果で、ソフトフォーカスで撮った様な、不思議な、だけど温かみのある風景があった。どこにも行かずにいてくれたカメラに感謝した。
 そんなわけで、このカメラの素性が妙に気になりだした。だが、調べてもあまり資料が出てこない。やっとの思いで判ったのは、大和光機工業という会社の、海外輸出専用のカメラだったのだ。そのため国内ではあまり流通していない。
 あるとき、松屋の中古カメラ市にうっかり足を踏み入れて、もう一台を手に入れることになった。あまり見かけない機種であったのと、きれいなレンズに惹かれてしまったのだ。たぶん、この市にたった1台だけの存在だったのではないか。
 家に帰って、シャッターの感触を楽しんでいてふと気付く。同じカメラが2台あるのだから、ステレオにできるではないか。小さいボディは並べてもコンパクト。だけど、一つはレンズが傷だらけだ。あれこれ考えているうち、輸出用ならebayで手に入るのでは?とひらめいて、とうとうもう一台を手に入れてしまった。まだステレオ撮影はしていないが、このカメラたちに愛称を与えたいと思う。とんきち、ちんぺい、かんた。生き別れの、同じ工場で生まれた三兄弟である。

PAX.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年09月22日 10:00

日が沈まぬ国のカメラ

 ソ連が崩壊してから、彼の地のカメラはebayを通じて手に入れることができるようになった。僕がebayを始めた頃、ロシアからの出品物は比較的安価に落札できた。それは米国からの出品物に比べ、送金方法が面倒だったり、輸送時のトラブル懸念で不人気だったのだろう。僕も、ロシアの銀行にルーブルで入金しろといわれても困るので長く遠慮していた。
 あるとき、米国の出品者がFED・BOYを出していた。送金は米国に、だが、物品はロシアから送るという。送金方法に面倒が無いので、安価に落札させてもらった。紙紐で丁寧にくくられた荷は、何のトラブルも無く僕の元に届いた。
 かつて日本では高価で売買されたが、手に取るとさほど高価には見えない。安価に落札したと思っていたが、まあ妥当な金額だったということだろう。部品の作り方やメッキの仕上げなどに、他の国のカメラには無い妥協のようなものが感じられる。でも、我々からすれば妥協に見えるが、ここまでの品質でよいという共産圏のマーケット事情が背景にある。工業製品というのは、適度な競争がないと進歩が無い。製造現場からの改善も進まない。
 この国の昔のエピソードとして、聞いた話。国土に鉄道を引く会議で揉めているとき、権力者がこうすれば良いと定規とペンを取って地図上に直線を引いた。だが、定規から指がはみ出していたので、指の形にカーブした妙なでっぱりができた。なのに誰も修正することなく、そのままの形で鉄道が敷設されたという。信憑性はともかく、お国柄が感じられる話。
 ソ連崩壊の後は、ものの作り方もだいぶ変ってきたようであるが、やっぱり彼の地から買うカメラにはUSSRの刻印のある古いものが魅力的だ。品質がどうであれ、当時の時代背景に思いを馳せながら使うというのも趣がある。
 そう、わが国の東京西部を走る中央線も、定規で直線を引いて計画された。指の形のカーブがあれば面白いのに。

USSR.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年09月08日 10:00

昔の風景

 ebayはとっても便利。日本ではなかなか手に入りにくい外国製品、あるいは日本国内では高価な外国製品を、比較的安価に入手するチャンスが盛りだくさん。僕はバイヤーとして参加し、出品することは無いのだけど、150件を超える取引をして一度もトラブルに逢ったことがナイ。全てポジティブフィードバック、ブルーの評価星を貰っている。
 取引自体も初期の頃に比べ、ものすごく簡単で、為替の動向によっては思いのほか安く買える。そんなわけで国内最大のネットオークション、ヤフーオークションは数回使っただけ。ebayはいいべえ。
 ebayのステレオカメラ関係とか、ビューマスターリールのカテゴリを監視するのも結構楽しい。最近ではカメラを落札することもないが、珍しいものが出ているとつい入札してしまいそうになる。僕が入札ボタンを押してしまいそうになるのは機械モノだけではない。ステレオカメラで撮影されたステレオスライドが出品されていることがあるのだ。
 それは‘50年代にセールスマンが売り込みの道具として用意した製品カタログだったり、普通の人が撮ったファミリー写真だったりする。たまに、日本に旅行に行ったときの写真、なんていうのが出品されていたりする。
 僕も、これだ!というものには入札するが、結構人気がある。高値になって落札できないことばかり。なかなか手に入らない。それにしてもフシギなのは、素人のファミリー写真なのに買いたい人がたくさんいるのだ。
 もし、普通のペーパープリントだったら入札するだろうか。そう考えると、3Dの魅力って結構深い。出品物の中には、持ち主が亡くなったので出品した、というモノもあるだろう。さて僕が死んだあと、たくさん撮りためたステレオスライドはどうなるのだろう。未来のebayで火星の移住者が競り落とし、ロケットで運ばれる日が来るだろうか。

パーソナルリール.jpg
△’50年代と思われる、普通の家庭の風景

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年05月05日 10:00 | コメント (2)

がっかりビューマスター

 ビューマスターのリールは、ebayで手に入れるのが一番いい。マーケットの規模としてそこそこの大きさがあるし、相場も安定している。また、郵便で簡単に送ることができる形状なので、海外からエアメールで送付してもらってもその金額は数ドル以内に収まるのだ。送料を入れても円高の現在なら千円程度で手に入るものも多い。僕はebayのおかげでコレクションを増やしてきたけど、今までにモノを受け取ることができないというようなトラブルに見舞われたことは一度もない。少々届くのが遅れることもあるが、到着を待っている間も待ち遠しくて楽しいものだ。
 以前、ビューマスターリールの中で面白いものを2点紹介した。今回はがっかりモノを紹介しよう。経年変化でフィルムが退色しているものもあり、これもがっかりの範疇に入る。基本的に中古物件なので、フィルムにカビが生えているがっかりもある。こういったがっかりを防ぐには、入札する前に売り手の説明文をよく読むことが大切。少しでも危ないと思ったら入札しないのが一番である。問い合わせで状況を確認しようとしても、十分な情報が得られない場合は多い。
 売り手の責任ではない、ソフトの内容そのものががっかりの場合がある。今回はそんな2点を紹介しよう。
★Butterflies ちょうちょのマクロ3Dである。色とりどりの蝶たちが立体で見ることができる。確かに立体なのだが何かヘン。どうやら、死んだ蝶を草木にそおっと乗せて撮影しているようだ。立体ゆえにバレバレ。
★CHiPs ご存知、白バイ野郎ジョン&パンチのリール。え?ご存知ではない?アメリカのTVシリーズドラマで、かつて日本でも放映されて大人気になった。これが3Dで見れるとは!と喜んでいたら、普通の2D写真に3D風の文字を入れただけのもの。よほど白バイ野郎に思い入れがない限り、鑑賞して楽しくない。でも、僕は好きなんだよな。

がっかりVM.JPG

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年04月21日 10:00

南国の香り

 カメラには革が張ってあるのが当たり前と思っていた。黒くて、でこぼこした、硬い革だ。カメラを掴む指が滑らないように、こんなに深く皺のよった革を使っているんだろう。でも、これって何の革なんだろう。子供の頃からの疑問だった。
 はじめは正体不明の何かの動物の革と思い、次には牛革を型押ししてでこぼこにしたんだろうと思った。でも、実際には違っていた。それはほんの少し軟らかいプラスチックのような、ゴムを硬くしたような樹脂のシートだった。双眼鏡にも同じようなシートが使われている。面積が広いためか、双眼鏡からはこの樹脂独特のにおいがする。これはなんだろう。
 石油から合成されたプラスチックの一種だと思っていたら、グッタペルカと呼ばれる天然由来の樹脂だということを知った。熱帯の植物から樹液を採って作った、天然ゴムのようなものらしい。だからこんなにおいがしたのか。
 では、リアリストはどうかというと、グッタペルカではなく山羊の本皮をなめしたものが使われている。滑り止めという点ではグッタペルカに一歩譲るとしても、質感はなかなかいいんじゃないかと思っている。だが、オークションで手に入れたものだと、ひどく痛んだものもたまにある。僕は外観が痛んでいるカメラでも、できるだけオリジナルのままで使いたいと思っているのだが、どうにも張り替えなければ使用に耐えないような可哀想なものもまれにある。
 新しい革を張るというのも修復の一つの方法で、その方法については前に紹介したことがある。でも、本革は結構高価であるし、滑り止めのシボの深さの、ちょうどいいものがなかなかない。そんな中、ビジネス用のA5サイズの手帳に使われているビニールカバーが、グッタペルカのような質感でシボの感じもいいことに気がついた。使い古した手帳からカバーを外し、カメラに張るのもいいかもしれない。いまのところ張替え予定のカメラがないが、古い手帳をストックしておこう。

グッタペルカ.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年03月31日 10:00

レンズキャップを作る

 レンズキャップを探す話を書いたけど、ちょうど良いものって案外ない。寸法がちょうど良くても形がかっこ悪かったりする。いろいろ探して、どうしても良いものがなかったのがベラスコープf40のキャップ。
 さて、どうしよう。さがしても見つからないなら作ればいいじゃないか。またまた恒例の「自分で作るシリーズ」である。つまりは、蓋を作ればいいのだ。円筒にはまる蓋を。紙で作れば簡単じゃないか、ということで、初めはとりあえず紙で作ってみるという方向で進めることにした。心配なのは、何かにぶつかった時、紙だと破れてレンズに致命的な傷が入るかもしれない。ならば、何か硬い芯を入れればいい。円盤状の硬いもの。ちょうどいいものがないだろうか。
 またまた頭の中で回路が働き出す。小銭入れを覗いたら、5円玉が一枚あった。閃いてレンズ枠の上に載せるとピッタリ。これを芯にしよう。まてよ、ステレオだから二枚要る。もう一枚探すのだが、こういうときに限って出てこない。
 ようやく見つけた5円玉。“フデ五”と呼ばれる昭和20年代の古い5円玉を使うのが粋かな、と思ったのだけど、隠れてしまうので意味がない。それはさておき、やっぱり紙だと耐久性に問題がありそうなので革を使うことにした。薄手の豚革があったのでこれを使う。厚紙を切るのと同じ要領で加工ができるし、皮革用の接着剤を使えば簡単に貼り付けができる。
 革を短冊状に切り、5円玉の縁に巻きつける。円筒状になった片側にいくつもの切れ込みを入れ、内側に折り込む。円盤状に切り抜いた革を正面と裏面に貼り付ける。簡単に言うとこんな方法なんだけど、本当に簡単に出来た。
 でも現行の硬貨を使うのは法律的にどうなんだろう、と少し悩んでみる。硬貨を加工することは法律で禁じられているのだ。削ったり、溶かしていないのだから法には触れないと思うが。5円玉はスーツの裾の錘として最適とも聞くし。いいか。

レンズキャップf40.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年02月17日 10:00

レンズキャップを探す

 リアリストにはレンズカバーがついているから、これが壊れてしまわない限り不便はないが、他のカメラとなるとレンズキャップが付いていない場合がほとんどだ。オリジナルには付いていたのだろうけど、中古で残っているものは少ない。
 市販のレンズキャップが使えればいいのだが、レンズの方が小さすぎて合うものがない。ステレオ関係で市販のキャップが使えるといえば、ワイドレンズコンバーターのレデュフォーカスぐらい。内爪式の49mm径キャップが使える。
 そんなわけで、レンズにぴったり合うものがないか、身近なところであれこれ探すのだ。人間の集中力というのは素晴らしい。必要に迫られると意識が集中する。目に見えるいろいろなものがキャップに見えてくるのだ。キャップ状のものが目に入ると、その寸法を瞬時に目測し、使えそうかどうか頭の中で高速演算するのだ・・・疲れるね。
 そんな具合でいいものを見つけた事例を紹介しよう。まずはデルタステレオ。なんとペットボトルのキャップがピッタリ。撮影中に紛失しても大丈夫。あえて、飲料のロゴが入っているものを使うのもオシャレさんかもしれない。
 お次はベルプラスカ。貴重なツアイスレンズを保護するため、キャップはぜひ用意してあげたい。コダックのフィルムケースのキャップが使える。内側にテープを貼って、少し寸法をつめるといい。これはシグネット35にも使える方法だ。シグネットにはテープを使わなくてもピッタリ合う。キャップのどこかにエア抜きの針穴をあけておくと使いやすい。
 最後にデュプレックス・スーパー120。ダイソーで物色していると、家具の底に貼るクッション(?)があり、円形のスポンジでレンズ枠の内側寸法に合いそうだ。これと、もう少し径の大きいゴム製のクッションを組み合わせた。スポンジが縮んでレンズ枠の内側にうまく収まる。2個作って紐でつなぎ、カメラに取り付ける。工夫次第でいろいろできるよ。

キャップ.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年02月10日 10:00

ハンドメイド・ストラップ

 ストラップを替えるだけでカメラのイメージは大きく変る。たとえば昔の一眼レフ。ちょっと大き目の望遠レンズを付けて、さらにモータードライブを付ける、こんなことをすると合体ロボットのごとく強靭なメカの雰囲気が放たれる。こういうメカロボに幅広のストラップを付けると「強いです感」が強調される。細いのを付けるぐらいなら、無い方がいい。
 こういった幅広のストラップをクラシックカメラに付けると、どうにもこうにも格好が悪い。料亭にジーンズをはいて行くようなものである。やはり、革製の細いストラップが一番似合う。金具は銀色。使い込むうちになじんでくる。
 リアリストのように、吊金具にある程度の幅がある環が付いているものは取り付けが簡単だ。だが、吊金具が特殊なものや、吊金具自体が無いものは困ったことになる。吊金具の無いものは、革製のカメラケースの方にストラップが付いているものが多い。それでも、たいていの場合は痛んでいたり、ストラップの交換が困難なつくりになっていて悩ましい。
 デュプレックス・スーパー120の吊金具は特殊で、釘の頭のような形をしている。これに合うものがなかなか無いので、自分で作ることにした。ストラップ本体は色違いの細革紐を三つ編みにし、扁平の帯を作った。この両端に丈夫な紐を輪の形で付ける。外れないように、縫い付けるようにして取り付ける。紐の輪には金属のチューブを差し込み、チューブを移動させることで輪の大きさを絞るようにする。釘の頭のような吊金具を、この輪で締め付けて取り付ける、というわけ。
 出来上がってみるとなかなかいい。紐を縫い付けたところは接着剤で補強し、飾り金具を取り付けている。もう一つ、ストラップが付けにくくて苦労していたのがベラスコープf40。この吊金具は穴が小さい。金属のリングを付け足すのも無粋だ。革でちょっとしたパーツを作ることで、デュプレックス用に作ったストラップが使えるようになった。工夫。工夫。

ストラップ.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2011年01月20日 10:00

デルタステレオで撮る

 以前に紹介したデルタステレオは廉価版ステレオカメラだ。レンズの焦点距離は50mmで、多くのステレオカメラが35mmであるからとても特徴的に見える。だが、このレンズは単玉メニスカスである。お世辞にもいいレンズとはいえない。フォーカス機構もなく、およそ3m先の被写体に焦点が合うようになっているだけなので自由度がない。シャッターも絞りも簡単な構造だ。そんなトイカメラのカテゴリーに入りそうなヤツなんだが、実際に使ったらこんな写りをしますという話。
 このレンズはそれほど明るくない。たぶん、日中の屋外で絞りをなるべく絞って使うように考えられていたのだろう。屋内で使う場合は専用のフラッシュガンが取り付けられるようになっている。このフラッシュガンの取り付け方も変わっていて、三脚ネジを使ってボディ底面にぶら下げるような形で取り付ける。天地を逆にして撮るようにしたのだろうか。
 さて、ストロボを取り付けられるようにアタッチメントを作るのも面倒なので、そのままの状態で屋内撮影をしてみた。この方が絞りを開けて撮ることになり、よりレンズの特徴が現れるのではないかと思ったからだ。作例はだいぶ昔のモーターショーでの一コマである。屋内といってもそこその明るさがあるので、絞りを開ければ手持ち撮影ができる。それでもスローシャッターにならざるを得ないので、ぶれないように慎重にシャッターボタンを押す。
 このカメラ、シャッターが開いてからさらにボタンを押し込まないと次のコマの巻上げができない。内部の機構を動かすために押し込むのだが、シャッターの動作音より大きな音がする。シャッターが「コットン」と動き、続いて内部の送り機構が「ガシャン」と動く。コットン・ガシャン・・・どうもこの感触、なじめない(笑)。
 まあ何はともあれ、ちゃんと写ればホワっとした感じに仕上がる。う~ん。やっぱり微妙。

Car2.jpg

投稿者 J_Sekiguchi : 2010年09月03日 10:00

パノラマカメラ

 ちょっと変わったカメラのカテゴリーということで、たまにはパノラマカメラの話題を。普通の画面の上下をトリミングしてもパノラマ風になるが、強烈な画角は得られない。本格的に驚異的な画角で撮りたい。レンズを横方向にスイングする本物のパノラマカメラが欲しくなった。さて、現行品として販売されているのはウクライナ製のホリゾン202である。ebayで検索すると出てくるのだが、入札する段になって迷いが出てきた。こんなプラスチック風のカメラで楽しめるだろうか。
 やっぱりクラシックでいこうというわけで、ホリゾンの原型となったHORIZONTをebayで手に入れることとした。この手のものは光線漏れがひどく発生すると聞く。それを修理するのも面白いぢゃないか。しばらくマーケットをウオッチして、前期型が出ていたので落札した。こいつはソ連時代のものである。はるばるロシアから送られてきた。さっそく動作確認をして問題が無いので試写してみると、案の定光線漏れがひどい。よく調べてみると、ボディとレンズユニットの隙間を遮光している部品が劣化していることがわかった。これを交換するには底蓋をあけてガバナー機構を外さねばならない。
 苦労して分解し、フィルムパトローネの口にある毛の生えた(?)遮光パーツを使って再生した。困ったことに、組み立てるときに部品がうまく合わない。加工精度が悪いのに、無理やり組まれていたから分解した後で位置が合わないのだ。部品を加工修正してなんとかしたが、ガバナーがうまく動くように組むのが大変だった。ついでにファインダーのクリーニングをしようとしたが、分解できない。接着してあるので、お湯で煮て無理やり分解(笑)。ついでに液漏れしていた水準器も分解再組立した。
 修理後は光線漏れも解消して快調。キリル文字の機体も気に入っているし、脅威の画角を楽しんでいる。プリントはスキャナーで取り込み、ネットプリントを使ってパノラマプリント指定で仕上げると安くて簡単だ。おもしろい。

horizon.JPG ファインダー.JPG

投稿者 sekiguchi : 2010年05月04日 10:00

単体距離計

 僕は目測というのが嫌いだ。日中の屋外で絞りを十分に絞っているから、適当にフォーカスをあわせておいても大丈夫。という状況でも距離計を使わないと落ち着かない。手を抜いているような気がしてしょうがないのだ。これがビューマスターパーソナルのように、フォーカスダイヤルがもともとありません、という状況なら諦めて使うのだけどね。だけど、フォーカスダイヤルが付いているのに距離計がない、というのはどうしてもダメである。第一、機械として面白くない。
 そんな距離計の付いていない代表格がベルプラスカだろう。このカメラ、フォーカスダイヤルを回すとそれに連動してビューファインダーの視野が動き、パララックス補正をするようになっている。そこまで凝った機能を持っているなら、距離計ぐらい付けておいたらどうなんだ。と怒ったってしょうがない。単体の距離計を探してくればいいのだ。
 単体距離計は二つの窓を持った箱型の構造で、アイピースを覗くとそれぞれの窓から入った風景が見える。覗きながらダイヤルを回すと内部のミラーが動いて、二つの像が合う。このときのダイヤル指標で距離を知るというもの。この距離にあわせてカメラのフォーカスダイヤルを操作する。小さくてカメラのアクセサリーシューに取り付けられるものがいい。
 気をつけなきゃならないのは、距離表示はメートルとフィートの2種類がある。カメラと距離計は同じ単位系にしておかなければ使いづらい。ベルプラスカはメートル系だったので、メートル表示の距離計を探した。もちろん中古で。
 欲しいとなるとなかなか見つからない。あちこち歩いて、やっと上野のお店で見つけた。なぜかこれにはアイピースが二つある。何だろ?と思って手に取ると、光学式の露出計であった。ここを覗いて一番暗く見える数字を探し、上にあるダイヤルでシャッターと絞りを選定する。面白いものを見つけた。ベルプラスカにぴったり。よしよし。

距離計.jpg

投稿者 sekiguchi : 2010年04月20日 10:00 | コメント (2)

圧板の修理

 ベルプラスカで撮影すると、必ずフィルムに横線が入ることに気がついた。乳剤面ではなくて裏面だから、圧板かどこかにキズの原因となるヤツが潜んでいるはずだ。漫画に出てくる虫歯菌のような、とんがった槍を持ったヤツが必ずいる。
 そう思ってカメラのあちこちを触ってみるんだが、どうにもよくわからない。キズはとても小さいので、人間の指先では感知できないような小さなヤツなんだろう。原因と考えられるのはやっぱり圧板だ。このカメラはオークションで購入したのだが、圧板の一部に塗装の剥がれがあった。当然、この部分は自分で丹念に補修したのだが。
 何回か塗装の補修をやり直したのだが直らない。仕方が無いので圧板を交換するしかない。しかし、オリジナルの圧板を外してしまうのは心苦しい。オリジナルに近い形で、もう一度修復する機会があるかもしれないのだ。できることなら、大きく手を加えないで修復したい。なんとかする手はないかなぁ。散々悩んだ。
 そこで選択したのが、オリジナルの圧板の上に、薄い新しい圧板を貼り付ける方法だ。新しい圧板はジャンクカメラから採取することにした。ちょうど2台で400円のコンパクトカメラがあったので、この圧板を取り外す。プラスチック素材なので、裏側を紙やすりで薄く削ってゆく。この作業は簡単そうで実は難しい。均一に削るには訓練がいる。僕は昔、金属の顕微鏡試料を研磨することばかりやっていたことがあって、その経験のおかげでうまく削ることができるのだ。
 新しい圧板をベルプラスカにセットできるようにカットする。切り口の角は丸く削り落として、ここは研磨で滑らかにする。プラスチック用のコンパウンドを使い、最後はCDのキズ修復用の研磨剤を使った。これをオリジナルの圧板の上に、両面テープで貼り付けた。この結果、キズは発生しなくなったのだが。・・・虫歯菌のようなヤツは、まだ両面テープにくっついている。

ベルプラスカ圧板.JPG

投稿者 sekiguchi : 2010年01月20日 10:00

ビューマスターのソフト

 ビューマスターの話題をもう少し。昔のリール・ソフトにもおもしろいものがたくさんある。これを入手するにはebeyを利用するのが便利だ。アメリカからの出品が、種類と品質の上でお勧めできる。かなり古いものであるはずなのに、年代の割に状態が良い場合が多い。アメリカの国民性なのか、気候によるものなのか。中にはデッドストックと思われる、未開封で値札の付いているものもあったりする。
 ただし、未開封であるから画質が落ちていないということはない。カラーが退色して赤味がかってしまっていることもある。開封していないだけに売り手に状態を確認できないので、その点はリスクだ。ポピュラーなのは3枚が1セットになってジャケットに入っているもの。安いものでは送料込み、千円以内で手に入る。
 ビューマスターと同じ規格で、チェコ共和国がチェコスロバキアだった時代にメオプタ社から出されていたリールもある。聞いたこともない東欧の町の風景が記録されたリールを覗くのもおもしろい。風景だけでなく、人々の昔の服装とか、クラシカルなスタイルの自動車が一緒に記録されていると一層おもしろい。
 アメリカで発売されていたものは、世界中の観光地をテーマにしたものをはじめ、さまざまなテーマのものがある。日本の「東京」なんてものもある。珍しいものでは価格も高くなって、50ドル、100ドルの値が付くものもある。「京都」のリールは60ドル近くの値が付いて落札することができなかった。
 色々買ったが、まだまだ興味は尽きない。中には平面写真を加工しただけのがっかり物もあったりする。そんな中、それほど相場価格が高くなくおもしろいリールがこれ。
・ WILD BIRDS
鳥たちの巣を覗く視点で撮られている。どうやって撮ったのか不思議。
・ Desert Wild Flowers
サボテンなど、砂漠で咲く植物たち。きれいな花のマクロ写真になっている。

どうぞ諸君もおもしろいリールを発見してくれたまえ。
VMリール.JPG

投稿者 sekiguchi : 2008年05月04日 11:09

ビューマスターのビュアー

 パーソナルの話が出たのでその続き。前に紹介した通り、ビュアーとリール・ソフトは現在でもおもちゃとして海外で売られていて、子供向けのリールがヨーロッパの空港のおみやげ物屋で売ってたりする。そのためか、今のビュアーはとてもカラフルなプラスチックでできている。バックライトが無く、外からの明かりを取り入れて鑑賞するものしかないけど、これはこれで手軽に扱えてイイ。覗きながらレバーを操作すると次々に風景が変わる。おもしろい。フォーマットが変わっていないから、ビュアーもリールも昔のものと共通で使うことができる。ビューマスターが登場したのは1950年より前だと思うから、かれこれ60年以上フォーマットが変わっていないことになる。すごいことです。
 昔に作られたビュアーも色々なタイプがあるが、ベークライトでできているのでブラックボディのものが多い。電池と電球を使ったバックライト付のものとか、焦点調節のできるものもある。僕はタイプDと呼ばれるバックライト付のものを使っているけど、例によって電球を明るいものに交換し、色温度を上げるフィルターを組み込んでいる。
 パーソナルで撮影したフィルムをブランクリールと呼ばれるマウントにセットして、これらのビュアーで鑑賞するのもおもしろい。ブランクリールは昔に比べて手に入れにくくなっているし、保管状態によっては表面にバブルと呼ばれるデコボコが生じているものもあるので注意したい。デコボコがあっても使えないわけじゃありませんけどね。
 もうひとつ注意したいのは、前にも紹介した通り専用のフィルムカッターが必要です。カッターを使えば、左右のコマを最適な位置関係で簡単に切り抜くことができます。ちょうど紙パンチのような構造のもの。これがまた手に入れにくい。手に入っても切れ味が悪かったりもするので、状態を良く確かめて買ってください。とはいえ通販では確認はまず無理なので、ebeyなんかで手に入れるときはちょっとした冒険をしなければなりません。でもでも、カッターを使わず、はさみで切り抜くのはホントウに超人的な精神力が必要です。僕にはできません。

VM(2).JPG
      ▲いまどきのビュアー                    ▲パーソナル専用フィルムカッター

投稿者 sekiguchi : 2008年04月26日 21:50

ビューマスター・パーソナルのひみつ

 リアリストとは全く異なるフォーマットのカメラである。ビューマスター・リールと呼ばれるディスクに7組のステレオペアのスライドをセットし、専用のビュアーで観賞する。ビュアーのレバーを操作すると順番に画面が切り替わる。これは玩具として現在も販売されている、観賞専用のビューマスター・リールと同じフォーマットである。現在も販売されているといっても、日本国内で販売店を見つけるのは難しい。海外の玩具店では定番商品として店頭に並べられており、アメリカのみならずヨーロッパの空港の売店でも普通にビュアーと現行ソフトを探すことができる。この他には海外通販で新品のビュアーを購入することができる。
 このカメラはユニークで、フィルムの上下を2分割して使用し、巻き上げながら上段で撮影したらレンズを下段にセットして巻き戻しながら撮影を継続する。詳しいことは他でも紹介されているのでここでは割愛するが、タテ8mm、ヨコ11mmの小画面ながら、十分楽しめる画質で撮影することができる。レンズは25mmf3.5であり、普通の画面サイズなら広角レンズになるが、画面サイズが小さいため画角としてはリアリストよりも狭くなっている。画面サイズとレンズ焦点距離の関係で被写界深度を大きく取ることができるので、パンフォーカスでの撮影が容易にできる。それ故、フォーカス機構がない。
 メカとしてのカメラ機構は非常に丁寧に作られており、ファインダー内に水準器がついていたり、シャッタースピードと絞りの設定が簡易露出盤を兼ねた配置になっていたりと操作面でも優れたデザインだ。現像後のフィルムは専用カッターでリールにセットできるように切り抜く必要があり、カッターなしでこの作業を行うのは極めて困難。残念なのはブランクリールの製造が数年前にストップしており、デッドストックを高値で入手せねばならない状況が続いている。使って楽しいシステムだから、一日も早いリール供給の再開が望まれる。

ビューマスター.JPG

投稿者 sekiguchi : 2008年04月19日 22:25

ウオーレンサック・ステレオ10のひみつ

 数あるステレオカメラの中で、レンズのF値が2.7の明るいレンズを持った唯一のカメラです。リベアステレオと同じボディと聞きます(リベア、持っていないんです)。画面はリアリストサイズで、距離計連動式のフォーカス機構があり、リアリストと同じようにフィルムレールが動いてピント合わせをします。ズシリと重い感じがするけど、実際にはリアリストよりも20グラム程度しか重くはないのです。重厚な雰囲気と、マーケットでも高値で取り引きされていることから「キングofステレオ」と呼ぶ人もいます。
 いつかは使ってみたいとebayを監視していて、かなりくたびれた感じの一台を落札することができました。外観はともかく、このレンズを使ってみたい、という思いで安いものを探していたんです。実際、だいぶ安かったんですけどね。
 で、到着した物件を確認すると、メカ的には特に問題はないものの相当にくたびれたものでした(笑)。ちょっと掃除をしてやろうとしたら、革がはがれる。しかもボロボロと(笑)。他にもだいぶアカが溜まってる(笑)。僕には変な癖というか、感覚というものがありまして、中古のものは一度自分で徹底的に掃除をするとか、メンテナンスをするとかしないと自分のものにならないんです。そのまま使っても何だか他人のカメラを使って撮影しているようで集中できない。
 このカメラも同じようにメンテナンスをしてやろうと思ったんだけど、どうにも分解の手順が分からない。あちこちいじっていると左右のレンズで組立方が違うことが分かったり…とにかく、一筋縄ではいかないところはキングだなぁと思った次第。面白そうなカメラなので皮革もオリジナルに近い状態で再生してあげたい。そんなふうに思っているうち、月日だけが過ぎてゆき。。。というわけで、このカメラはまだ僕のものになっていないのです。テスト撮影もまだ。ですから、ウオーレンサックのひみつはこれから明らかにされるのでした。おたのしみに(いつのことやら)。

ウオーレンサック.JPG
   ▲まだ値札がついたまま(笑)

投稿者 sekiguchi : 2008年04月12日 21:25

デュプレックス・スーパー120のひみつ

 横長スタイルばかりのステレオカメラの中で、ちょっと変わったかたちのイタリアカメラ。というのもブローニーフィルムを使うのだ。6センチ幅のフィルムに、なかよくリアリストサイズの画面が並ぶように撮れる。ただし、リアリストのステレオベースの半分ほどしかないので立体感がやや乏しい。反面、近距離の被写体に対してはマウント時にステレオウインドウが作りやすい。レンズは35mm/F3.5で、描写はふわっとした感じ。コントラストはやや低い。リアリストの硬調な描写とは対照的だ。
 このカメラはマーケットになかなか出ないし、ちょっと高価な部類になる。僕のはフィルム圧板が取れかけていたり、レンズキャップも紛失していて割安で手に入れることができたもの。ファインダーも分解掃除して、機構のメンテナンスもしてみた。
 レンズキャップは家具の滑り止めに貼るゴムシートを使って自作した。二種類の円形パッドを組合わせ、ナイロンコードで繋いだ。一見自作には見えない仕上がりにとても満足。ストラップ金具が特殊だが、これも自作のストラップを付けてみた。他のどんなカメラにも無い独自のスタイル。持っているだけで楽しくなるデザインだ。
 気を付けなきゃならないのは、フィルムの巻き上げだ。ノブを回してもロックがかからない。ブローニー(120)の裏紙の番号を裏板の小さな窓に合うように回すのだが、慌てているとうっかり巻きすぎたりしてしまう。
 このカメラは独特のスタイルで威圧感もないし、描写からしてもポートレートに使うのに適しているんじゃないかな。ただ、シンクロ接点があるのにシューがないから、ブラケット式のストロボを使わなきゃならない。そんなことをしたら、せっかくのコンパクト性が台無しです。上下を逆さまにして、三脚ネジ穴にアダプター・シューを付け、小さなストロボを付けてはどうだろう。おでこホールド&左手親指シャッター押しの、気軽なスナップ・ステレオカメラとして使えそうである。

duplex_S120.JPG

投稿者 sekiguchi : 2008年04月05日 11:25

ベラスコープf40のひみつ

 ヨーロピアンフォーマットのフランス製カメラ。アメリカではブッシュ社が販売代理店をしたので、アメリカ由来のものにはブッシュ社の刻印がある。レンズは水中カメラで有名なカリプソと同じ、ソン・ベルチオ製だ。このレンズはボケの感じがとてもやわらかく、しっとりとした感じに写る。これを買うときに「フランス映画のようなきれいな写り方をしますよ」と言われたが、フランス映画を知らないくせにその時はなんだか納得した気分になっていたのがお恥ずかしい。撮影してからこんな感じか、と思った次第。
 後期型にはレンズコーティングが施してあるものの、逆光には極めて弱い。レンズ本体の弱さに加え、筐体の暗箱としての設計に問題がある。裏蓋を開けるとフィルムフレームの内側に傾斜した面がある。この面でレンズからの像が乱反射し、フィルムにフレアの形で現れてしまうことが調査の結果判明した。これは昔のフィルム感度がどうこうというレベルではなく、こんなところで乱反射が起きること自体が問題だ。どういう設計しとるんじゃ、ゴルァ!というレベル。高価なカメラであるだけにショックは大きい。これを解消するには傾斜面へのつや消し黒塗装をやり直す程度ではダメだった。植毛紙を貼り付けるという手術がいる。しかし植毛紙にはある程度の厚さがあり毛先が立っているので、画像の四辺が毛羽立ったような輪郭になってしまう。なるべく毛足の短い植毛紙を使ったり、毛先を焼いて丸めるなどの工夫も必要だった。手間をかけてやっとレンズ本来の描写を楽しむことができる、ちょっとしたトンデモカメラだ。
 光学機器としての設計はともかく、メカとしての作り込みは重厚で、モノラル撮影切り替え、ガバナー音のないスローシャッター、凝った作りのファインダーなど、他にはない魅力がある。さすがはカメラ発祥の国らしい作り込みだ。でも、そこまで凝った作り込みをするなら暗箱としての性能は最低限確保して欲しかった。これって基本だよな。

F40.JPG
               これは既に植毛紙で改善した状態 ▲

投稿者 sekiguchi : 2008年03月29日 23:43

デルタステレオのひみつ

 非常にシンプルな構造のカメラである。ファインダーのアイピース部分が裏蓋のロックをするノブを兼用している。まず最初に、やってはいけないことを教えよう。アイピースのレンズが汚れているからといって、綿棒でレンズを拭いてはいけないよ。なんと、レンズが奥に押し出されてカメラ内部に落ちてしまうことがある。こうなったら分解しなければならないが、特殊工具がなければ分解することができない。だから、ブロアーでそっとホコリを掃う程度にしておいた方がいい。えっ!?そんなのアリ?と思われるかもしれないが、実際にあった事実だ。
 裏蓋を開けるとパーフォレーションに勘合する櫛歯が見える。フィルムを巻き上げると、フィルムに引かれてこの櫛歯が右方向に動く。この動作でシャッターチャージをするという変わったセルフコッキング機構になっている。シャッターボタンを押すとシャッターが作動し、更に押し込むと櫛歯が奥に引っ込んでスプリングの力で左端に戻る動作をする。こんな動きをするカメラ、見たことがない。フィルムを巻き戻すときはシャッターボタンを押し込んで、櫛歯を奥に引っ込めてフィルムがフリ-になった状態でノブを回す。巻き戻す間はシャッターボタンを押しつづけ、櫛歯を引っ込めておく。
 レンズは50mmで、この時代のステレオカメラとしては珍しい焦点距離である。と思ったらコーティングなしの単玉メニスカスだ。およそ2~3mにフォーカスが固定されている。描写は「ふわっと」というか「ぽわん」というか。使い方次第では面白いカメラであるが、機能・性能を大幅に削除した廉価版である。マーケット価格も比較的安価ではあるが、価格を根拠にエントリーモデルとして購入すると撮影してガッカリという事態になりかねない。単玉レンズならではの特徴的な写り方をする、ということを理解した上で、このカメラならではの味わいを楽しみたいものである。

デルタ.JPG
       キャップは自作した ▲

投稿者 sekiguchi : 2008年03月22日 11:31

キンダーステレオのひみつ

 このカメラはリアリストと同じデザイナーによる設計と聞く。確かにファインダーが下部にあり、おでこホールディングになっている。このファインダーが距離計連動で、二重像合致式になっている。この他にも、巻き戻しがクランク式になっていたり、セルフコッキングになっていたりとなかなか先進的なメカニズムを採用している。レンズはシュタインハイル社製の35mm/f3.5がついているけど、おそらくトリプレットだろう。
 このカメラは中古マーケットでもそれほど見かけない。希少なのかと思ったら、マーケットでの価格もそれほど高くはない。運良く安価で入手する機会があったけど、シャッターが不良だった。仕方なく分解して観察してみると製造コストをかなり下げた設計思想であることがわかる。作動不良の原因はガバナーの固着だった。ガバナーと言ってもあまり精度のよくない部品で組まれており、シャッターも2枚の穴明きスチールプレートを重ねて摺動させる方式のため、安定して作動させることが難しい。調整を重ねても安定しないのはシャッターのスチールプレートの間に汚れがあるためなのはわかっていた。でも、プレートを取り外すにはレンズを分解しなければならない。シャッターが絞りを兼用しているため、組みレンズの中間にプレートがあるのだ。残念な事にレンズ鏡筒は分解が難しい構造になっている。ムリに分解しようとするとレンズを傷める危険がある。
 結局、重分解を行っても、もともとの構造が精度の出にくいものだから、と調整を諦めてしまった。シャッターの修理を行おうとするとレンズの分解まで手をつけねばならない。そのためかマーケットでも完全に動作する機体は少なく、レンズのきれいなものも少ない。非常にメンテナンスのしにくい機種である。もしかしたら、斬新なデザインにしたものの販売戦略的に製造コストを下げるため、メンテナンス性を犠牲にしたのだろうか。良いデザインだけにとても残念。

キンダー.JPG

投稿者 sekiguchi : 2008年03月15日 13:22

ベルプラスカのひみつ

 旧東ドイツ製で、ツアイス・テッサーレンズがついたヨーロピアンフォーマット・カメラ。ツアイスレンズがついているということで人気がある。リアリストf2.8とよく似た描写なんだけど、ほんの少しだけやわらかい表現をするような気もする。
 さて、せっかくのツアイスだけど残念なのはボディへのレンズ取り付けが悪く、性能を発揮できていない場合がある。僕のがそうだった。左右のレンズでピントが違うのだ。ステレオ視したのでは見逃しやすいが、片方ずつをルーペでチェックすると片方の像がぼんやりしていて愕然とした。リアリストはフィルムレールの位置を調整してこのような不具合を直すことができるけど、ベルプラスカには調整するところがない。思い切って分解してみると、筐体とレンズボードをつなぐネジのところに薄いワッシャーが入っていた。なんだろ?と思って取り出すと、薄い紙片で作ったワッシャーを重ねている。どうやら、これで位置調整をしているらしい。それにしてもこのワッシャーの作り方がお粗末で、オリジナルとは考えにくい。もしかしたら、ドイツのおっちゃんが自家修理でこっそりやったものかも。だって紙だもんなぁ。
 とにかく、調整するにはここしかないので僕も紙でワッシャーを作ることにした。柔らかい紙では不安があるので、トレーシングペーパーのような硬くて薄い紙を使ってみた。シャッターをバルブで開放し、三脚に乗せ、フィルム面にすりガラスを置いて像を観察しながらワッシャー枚数で調整する。ワッシャーを重ねたり、抜いたり。こんな方法で製造時も調整していたのかと思うと「それはないだろう」という気がする。それでもなんとかこの方法で調整を完了することができた。このカメラは目測式だが、僕は目測が嫌いだからシューに単体距離計を乗せている。調整のついでに距離リングの位置も調整し、マッチングを図った。近距離での撮影もバッチリ隅々まで焦点が合う。苦労したよ。

ベルプラスカ.JPG

投稿者 sekiguchi : 2008年03月08日 10:10

FED・BOYのひみつ?

 ステレオリアリストのひみつを探ってきたけど、他のステレオカメラもいくつか紹介しておこう。これはFEDステレオと同じ系列のウクライナ製カメラ。ヨーロピアンでオートマチック撮影という他にはない機能を持っている。
 フィルム感度を合わせ、右レンズの脇にあるレバーをAにセットすれば、露出を自動コントロールしてくれる。被写体が暗すぎる場合はシャッターロックする安全機構もある。レバーを絞り値にセットすると、シャッターが1/60に固定される。マニュアル撮影というよりはフラッシュ撮影のためだ。
 レンズはインダスタール38mmf2.8で、なかなかよく写る。ただ、僕のはレンズの取り付けが悪いのか、片画面で隅の方にちょっとしたピンぼけが目立つことがある。ステレオ視の時にピンぼけは目立たなくなるから、この辺は許してやろう。
 この国のカメラはユニークだ。でも、故障も起きやすい。あるとき、修理依頼で業者に電話をすると「あ~。ロシアですか。ロシアには手を出すなって親方にきつく言われてるんですよ」と丁重に断られた。正確にはウクライナはロシアではないのですがね。それはともかく、我が国のカメラとは部品精度の基準が異なり、分解すると元通り組めなくなるらしい。このカメラは巻き上げ機構にトラブルが多く、ひどい場合はフィルムが切れる。思い切って自分で分解してみてびっくり。2枚のギアを重ねて勘合している部分の加工が悪く、部品が滑っていた。部品の手直しは簡単だったが、組立にはやっぱり苦労した。
 露出制御は針式のメーターが内部にあり、針をシャッター機構が挟み、その位置で絞りの開口を決めるというメカトロニクス(笑)な制御がされている。驚くことにこの電子回路にはスイッチが無い。電池を入れておくだけで常に電流が流れているという常時戦闘態勢モードの設計になっている(笑)。使わないときは面倒でも電池を抜いておこう。

FED_BOY.JPG

投稿者 sekiguchi : 2008年03月01日 01:08